第16話 明るく気さくな侯爵令嬢 1
野外訓練後の休み明け、大講堂に班別に集められ、野外訓練の詳細な講評が教員たちから行われた。
今回はデポラ様が指摘していた通り、実力や経験の異なる班員とどう行動するかを主に見られていた。
苦手な人に合わせる協調性、群れで行動する森狼への対策方法。リーダーシップなどなど。
その後に班ごとの評価成績が発表されたが、速報のまま全ての評価項目で俺たちの班が一位だった。
詳細な評価表も各自に配られた。リーダーシップや実力と経験が異なる班員への気遣いを評価されていた。
後は班全体の適切な役割分担や、苦手を克服しようとしたり出来る人に教えを乞う前向きな姿勢が評価された。
精神面でも高い評価が書かれていた。それとともに、エルヴィーラ様は規格外なので心を折られちゃダメ、みたいな激励も書かれていた。
他の班員にも見せてもらったが、だいたい似た様な評価だった。
エルヴィーラ様が評価表を見て微妙な顔をしていたので、気になって見せてもらった。頼んだら普通に見せてくれるんだ。頼んだのは俺だが。
一人で何もかもせずに、チームワークを大切にしたのが非常によろしいなどと書かれていた。やっぱり俺たちの方が合わせてもらっていたのか。そこまではいい。
その後は野外訓練でパイやグラタンを焼く生徒を初めて見たとか、そのどれもがとても美味しそうだったとか。
野外訓練後半でのトマトスープはずるい、冷凍は思いつかなかったなどと、食事に関する事が沢山書かれていた。
これは野外訓練の評価としていいのだろうか。
「私のだけ評価内容がおかしくない?」
エルヴィーラ様の言葉に全員が目を逸らした。成績トップの一番の功労者に対する評価がおかしいと俺も思う。
俺たちが騒いでいるのに気が付いたテオドール様がやって来て、エルヴィーラ様の評価表を見て爆笑していた。
「エル様、御飯しか評価されてないじゃん!」
「違うもん! よく見て、協調性だって評価されてるもん」
「分量が全然違うだろ!」
「ヴェンデルさんからもテオ様に何か言ってやって!」
巻き込まないで欲しい。
その後、テオドール様に言われて俺の評価表を見せた所、心を折られちゃダメの下りでまた爆笑していた。
「あー、面白かった。エル様の魔法関連のメモは取ってるよな? 今日か明日昼飯一緒にどう? クリス捕まえてあるんだけど」
班員と顔を見合わせ、是非にとお願いをした。その日の昼休みに早速食堂で話をする事になった。
俺たちの話を聞きメモを読んだクリストフル様は頭を抱えた。テオドール様は「凄いけど酷い!」とまた笑っていた。
「まずはえーっと、アレです、エルは理論に基づきつつも、最終的にはイメージで魔法を使うんです」
クリストフル様が遠い目をしながらも説明を始めてくれた。
「魔力の調整は完璧という前提で、テントが浮いていたのはおそらく周囲の木にテントを引き寄せる力を発生させて、その均衡が保てる位置だから浮いていたんだと思います」
「めっちゃ計算しないと無理じゃないか!」
テオドール様が吠えた。
気持ちはわかる。あの時エルヴィーラ様は、それぞれがテントを設置しようとした場所から浮かせていた。
エルヴィーラ様にテントを移動する様言われなかった。という事は……である。
「あの人は感覚と雰囲気で最適な場所や加減を割り出すんだと思います。もう、野生の勘を超える何かです」
「……」
「移動は? これが出来たら次で好成績は間違いなしだろう?」
テオドール様が諦めずに食い付く。
「これはもう、ちょっと意味がわからないです。本人に詳しく聞いて……もわかるかわかりませんが」
流石にばびゅーんはクリストフル様でも無理だった。唯一防護魔法でパイを焼く方法は判明した。
「それは防護魔法の応用と? なら防護魔法内で焚火の熱がいい感じに循環する様にしていたのだと思います」
「……可能なのですか?」
ヴィルマーが聞いた。
「理論上は」
「……」
時間も無くなり、解散となった。
エルヴィーラ様は最初はあやふやだったと思われる班員の名前も野営訓練が終わる頃には覚えてくれ、すれ違えば挨拶もしてくれるようになった。
何と言うか、とても、嬉しい。儚い雰囲気が消えたらしいエルヴィーラ様は、明るく気さくな侯爵令嬢だった。
驚いた事にその週の週末に、デポラ様なども交えて、鍛練場でエルヴィーラ様が魔法を教えてくれるからとテオドール様からお誘いが来た。
メンバーに慄きながらも、魔法が知りたくて全員で参加を希望した。
テオドール様によると、デポラ様も救援の早さが気になってエルヴィーラ様に聞いたものの、ディートリヒ様と二人で聞いても理解できなかったそうだ。
だから皆で、という事らしい。エルヴィーラ様、一体どれだけ説明が下手なんですか。
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