第15話 謎の生き物 5
クリストフル様の動きが明らかに変わった。今まで班員を気遣っていたのがわかる。焦ったリーダーが、自分の身を守る為に群れの仲間の体を利用し始めた。
それを物ともせずに、的確にリーダーに肉薄していっている。これは本当に、かなり格好いい。
「クリス、格好いい~! デポラも美しい~!」
緊張感のない言葉とは裏腹に、エルヴィーラ様の魔法が的確に森狼の数を減らしていく。
「二匹左に抜ける!」
「はいっ!」
デポラ様からの指示も的確で、俺たちも問題なく対処出来ている。
大きな群れに当初は緊張したものの、結果的にはエルヴィーラ様たち三人の殲滅ショーだった様に思う。
初めて魔獣に同情しそうになった。そして、デポラ様もクリストフル様もエルヴィーラ様への信頼が篤い。
「いやー、数が多くて面倒でしたね。ありがとうございました」
「お互い様よ。いい運動になったわ」
「二人共素敵だったよ~!」
三人にとってあれくらいは、どうという事は無いのだと改めて感じる。
クリストフル様の班員は消耗が激しかった為、デポラ様の班と共に野営地へ向かう事になってその場で別れた。
その後も俺たちは順調に森の探索を続けた。夜を前に同じ野営地へ戻ったが、デポラ様の班もクリストフル様の班も既にいなかった。
どちらの班の班員も消耗が激しかったので、一緒にベースキャンプに向かって下山を始めたのだろう。
翌日はベースキャンプへ戻りつつ、適度に討伐もした。
事前に調べた障害物の少ない道を選んだことで、余裕を持ってベースキャンプへ到着することが出来そうだ。
エルヴィーラ様の荷物がパンパンだった理由が遂に判明した。俺が止めた卵とトマトをタッパーに入れ、キャベツまでこっそり持って来ていたからだった。
卵には防護魔法、トマトに至っては魔法で冷凍保存しているという訳の分からなさ。
「そろそろ出しても怒られないかなと思って」
「問題はそこじゃありませんよ」
いたずらが見付かった様な顔をしつつも、美味しい料理にしてくれたので最早文句は無い。
野外訓練の終盤で、まさかトマトスープが飲めるとは思わなかった。
「明日の朝はカリカリに焼いた塩豚と目玉焼きをパンに挟むとかどう?」
「いいっすね!」
「キャベツの千切りも入れたら野菜も食べられるし、お昼はどうしようかなー」
野外訓練後半でこの会話。危惧していた人間関係とか、精神的な疲れとかは全くない。
毎日快適に眠り、毎食美味しいご飯を食べ、ギスギスとは無縁の楽しい移動と探索。今までの野営訓練とは雲泥の差。
終始危険は感じず、最高に快適な野営訓練だと言える。ベースキャンプにも余裕を持って到着することが出来た。
結果、速報値ではあるが、探索距離、自力討伐数、救援成功回数が俺たちの班が最多だろうと教員に言われた。
俺たち貢献してたか? と思わなくはないが、エルヴィーラ様が笑顔で「チームワーク良かったもんね!」と言うので、うん、まぁ、そういう事でと全員が落ち着いた。
先に無事にベースキャンプに着いていたデポラ様からも、声をかけられた。
「ヴェンデル、だから言ったでしょ」
名前を覚えてもらえていたことに関しても、何か涙が出そうになった。
このままベースキャンプで一泊し、翌日に馬車乗り場まで移動する。
帰りは自由だったので、訓練の打ち上げと称した夕食後からはエルヴィーラ様とは別行動になった。
「なぁ、俺たち凄くいい体験をさせてもらったよな」
普段は無口なヴァルターがそんな感想を口にした。
「ああ。そうだと思う。野外訓練がこんなに快適だと思ったら大間違いだぞ」
ヴィルマーが指摘をする。
「やっぱりそうなんだ?」
ヴィリが残念そうに言う。
「あんな美味しいご飯はもう食べられないのか……」
「ヴィムは最初から最後までそればっかりだな!」
エルヴィーラ様と数日に渡り行動を共にしていた影響か、ついヴィムにまで指摘をしてしまった。
「はははっ」
誰からともなく笑いがこぼれた。
「……いい野外訓練だったが、本当にこんな快適じゃないからな」
ヴィルマーが念押しする様に言う。
「俺、もっと料理頑張るよ」
「いや、他も頑張れよ」
「俺は魔法を頑張る。キュッとの意味が未だにわかんないけど」
「それな。っていうかほとんど全部意味わかんねぇよ」
そして最終日の夜は楽しいまま更けていった。
翌朝もエルヴィーラ様を除く班員で馬車乗り場へ移動し、馬車にも一緒に乗って学院の寮へ戻った。
学院は明日休みになっている。野営訓練の疲れがほぼ無い俺たちは、休日も一緒に鍛練場へ行った。
野営訓練で見たエルヴィーラ様の魔法や、じっくりとは見れなかったがデポラ様やクリストフル様の動きなどで参考に出来るものはないかと模索した。
……特に魔法は訳がわからなさ過ぎて、諦めざるを得なかった。
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