第14話 謎の生き物 4
その日の夜はデポラ様の班と同じ野営地で夜営をする事になった。そして何故か、デポラ様が我々の傍で寛いでいる。
「デポラはこっちにいていいの?」
「いーの、いーの。彼らは反省会をしているはずだから」
隅で固まっているデポラ様の班員は、全員の疲労の度合いがかなり激しく見える。何かあったのだろうか。
俯いてどんよりしていて、暗いオーラがこちらにまで漂って来そうである。
「彼らさぁ、私がいるからって好成績を狙ってるんだよね。私は最初の時点で無理だって言ったんだけど、どうしても狙いたいっていうから班長もしてないの」
耳が痛いです、デポラ様。それは誰でも夢見てしまうと思います。
「そうだったんだ。何で無理なの?」
「私個人は強いと思うよ。でもさ、エルみたいに周囲を底上げは出来ないし、野外訓練初心者が三人もいるから、難しいだろうなって思ったの」
「あー、だから無理し過ぎて、あんなお疲れ顔なのか」
「私一人に頼って、好成績って考えがそもそも間違いよね。今回はチームワークが試されている訓練なのにね」
チームワークが試される訓練だったのか……? 評価項目に入っているだろうと予想はしていたが、メインとは思っていなかった。俺はまだまだだな。
「こっちはチームワークいいよ」
嬉しそうに言ってくれるエルヴィーラ様に、何故か誇らしげな気分になる。
「でしょうね。皆つやつやで幸せそうだもの」
何だ、その例え。けれどデポラ様の班員と見比べるとそう感じてしまう。向こうはしわしわのしおしおだ。
「毎回美味しいご飯を食べてるんでしょ? いいなー、エルの班」
「デポラだって料理上手じゃん。色々作ればいいのに」
「ダメダメ、基本は彼らに任せたから、食材は硬いパンと干し肉ばっかり」
「えっ、栄養面とか大丈夫?」
「大丈夫。個人で野菜とか果物とか、色々持ってるから」
「さっき、ベリーを見つけて今からパイを焼こうと思っているから、デポラも食べる?」
「あんたたち、訓練中に何やってんのよ」
デポラ様がキッと睨む様に周囲に動かした視線に、誰もが目を逸らした。
「見て、ベリーだよ! 完熟してて美味しそう。採ろうよ!」と嬉しそうに言うエルヴィーラ様に、誰も反論できなかった結果である。
「どうせ私の班は成績最悪だろうし、頂いちゃおうかなー」
そう言ってデポラ様とエルヴィーラ様が、ある意味で俺たちにとって貴重なベリーパイを焼いてくれた。
上流貴族の令嬢が二人がかりで焼いてくれたパイを食べる機会など、もう二度とないだろう。
普通に考えたらエルヴィーラ様の手料理を食べる機会も、この野外訓練が最初で最後だと気が付いた。
あの時小麦粉を却下しなくて良かったと心から思う。デポラ様個人の食材も提供して貰ったので、二ホールある。
「はい。これから𠮟咤激励に行くんでしょ。頑張ってねー」
デポラ様に焼きたてのパイを渡したエルヴィーラ様に、笑いかけながらデポラ様は自分の班の所へ戻って行った。
班員を見捨てるのか? と不思議に思っていたが、流石デポラ様。それを理解しているエルヴィーラ様も素晴らしい。
「ほらっ、いつまでもウジウジしていないの。先の事を考えましょう」
デポラ様の激励を受け、彼らは半泣きでベリーパイを頬張っていた。落ち着いた後、お礼を言いに来た。
二人が焼いてくれたベリーパイは、甘酸っぱくてとても美味しかった。
翌日、デポラ様たちはこれ以上の探索をやめ、今日は昼まで休んで後はそのままベースキャンプへ向かうと聞いた。
俺たちはもう少し奥まで探索して、明日からベースキャンプに向かうことにした。
野営地を出て数時間。野営地周辺に森狼の群れが点在していて、野営地周辺をうろうろしていた。
その時、クリストフル様の班から救援信号が上がった。信号を返したのはまだ野営地にいるデポラ様と俺たちの班。デポラ様の班は無事持ち直したらしい。
「早速ありがとうございます。凄い豪華な救援メンバーですよねぇ」
エルヴィーラ様の魔法による追加の底上げで、近かった筈のデポラ様の班よりも先に現場に到着した。
そんな俺たちにのんびりとクリストフル様がお礼を述べてくれているが、そんな場合ではないと思います。
今まで見た事がない規模の大きな群れだった。そしてひと際大きいリーダーと見られる個体を相手にしながら、クリストフル様がお礼を言っていたのだ。
しかも統率が取れている群れは、リーダーが攻撃を入れやすいようにクリストフル様の死角から襲い掛かっている。
クリストフル様の班員は少し離れた場所で固まって、自分たちに向かって来る森狼に対処をしている。
クリストフル様を援護する余裕は無いようだった。何でこんな大きな群れがと思いつつも、クリストフル様たちと合流出来ない様に森狼が牽制して来る。
「あれー、何で私たちよりエルの方が早いのよ。おかしいでしょ」
そこにまた場違いな雰囲気の声を出すデポラ様が登場した。
「皆さんありがとうございます。この個体は僕が相手をしますので、他をお願いします」
「やだ、クリス。格好いいー!」
エルヴィーラ様も明らかに場違いな合いの手を入れている。
「了解。他は任せて。エル!」
「あいあーい!」
一気にエルヴィーラ様が周囲に防護や補助の魔法をかけてくれる。それでいてクリストフル様とデポラ様を魔法で援護し始めた。ならば。
「俺たちはエルヴィーラ様の安全を確保するぞ!」
「了解!」
「ヴィリはエルヴィーラ様の背中に!」
「わかった!」
デポラ様の班員は、クリストフル様の班員の補助に入った。
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