第13話 謎の生き物 3

 ヴィリの弟の班は治療を済ませた後、戻る事になるが最寄りの野営地へ向かうとのことでその場で別れた。

 治療もしたし、教員の付き添いもあるから大丈夫だろう。エルヴィーラ様も戻る側なら森狼がいないと言っていた。


 俺たちは奥にある野営地へ向かい、合間を見てはヴィリとヴィムがあれこれエルヴィーラ様に質問をしていた。

 ヴィムは相変わらず料理について、ヴィムは弟の班を圧倒的な能力で助けてもらったのもあってか、エルヴィーラ様の魔法に興味が尽きないらしい。


 魔法への興味はあるが、エルヴィーラ様の説明ではわからない。


「この移動はどうやって実現しているの?」


 朝は出発の時間の関係で聞きそびれていたが、俺も非常に気になっていた。

 それは他の班員も同じだった様で、周囲の警戒はそのままに皆がエルヴィーラ様の返事に注目しているのがわかる。


「これはねー、重力魔法と風魔法と身体強化の複合かなぁ?」

 何故に毎回疑問形。自分が使った魔法だろうに。


「三つも重ねがけですか……」

「いや、重ねがけはしてないよ。皆が素早くばびゅーんと、って感じ」

 エルヴィーラ様の返事は意味不明で、結局真実は闇の中状態だった。


 その日の夕方。かなり山奥の野営地に危なげなく到着した。他にも数班が既に野営の準備をしている。

 早速エルヴィーラ様が夕食の準備に取りかかり、ヴィムが手伝いにいった。すっかり懐いている。


「あれ、エル様じゃん」


「あ、テオ様。こんばんは~」


「こんばんは~」


 エルヴィーラ様が知り合いに話しかけられた。野営訓練で会った時の挨拶が、気の抜けたこんばんはでいいのか。

 あの人は確か、魔力量が多く魔法学院で一番上のクラスにいた令息だ。伯爵家の長男で、どこの伯爵家だったか……。


「ディートリヒ様の友人で、ルキア伯爵家のテオドール様だ」

 小声でヴィルマーが教えてくれた。


 ルキアと言えば、海賊対策で有名な伯爵家だ。魔法で簡単に大きな船を沈めるのだと噂を聞いた事がある。

 俺たちは魔力量と家格の関係で三組や四組に在籍していたので、一組の事は噂でしか知らない。


「ここまでどうだったの、エル様。また訳わかんない魔法使ったんじゃないの」


「えー、普通だよー」

 思わずあちらに参加して、普通じゃないと突っ込みたくなった。


「嘘つけ! 絶対に嘘だね!」


 テオドール様のその言葉に、思わず何度も頷いてしまった。ヴィムもヴィリも首振り人形になっていた。

 そのまま二人で魔法の話をしてくれないだろうかと期待していたが、そうはならなかった。


「うっわっ、何それうまそう! えっ、まさかグラタン作んの?」


「そうー。ここちょっと寒いから、温かいご飯食べたいかなーって」


「うわー、うわー、味見させてー」


「駄目だよー。これは皆の分」


「そこを何とか、干し肉とトレードとかどう?」


「干し肉いらなーい。それ、美味しくないもん」


「やっぱり? もう飽きたんだよな。何かいい調理法とかない?」


 二人は干し肉の美味しい調理方法がないかと話に花を咲かせていた。何かとても暢気だ。

 グラタンを美味しく頂いた後──もう誰もどうやって焼いたとは聞かなかった──エルヴィーラ様が就寝の為にテントに入ってから、他の班員で集まった。


「エルヴィーラ様、親切に隠すことなく教えてくれているのはわかるんだけど、理解できないのは俺の頭が足りないせいなのか」

 ヴィリが落ち込んでいる。


「いや、俺も真剣に聞いて考えたけれど、意味が全くわからなかった」

 ヴィルマーの意見に俺も同意する。


「料理の説明は普通なんだけどなぁ」


「魔法上位陣は、皆あんな感じなのかなぁ……」


 その時、テオドール様がこちらに来て話しかけて来た。


「あんたら、エルヴィーラ様の班員だよな?」

「はい、そうです」


「さっさと諦めた方がいいぞ。エルヴィーラ様は説明下手だ。あれを理解できるのはデポラ様とクリストフルくらいしかいない。ディートリヒでさえ、いつも遠い目をしているからな」

「えっ……」


 説明下手が周知の事実なの。侯爵令嬢としてどうなの。


「知りたい事や言われた事をメモしておいて、後で二人に……いや、クリストフルに聞くといいぞ」

 聞きに行ける訳がない。クリストフル様は辺境伯令息だ。


「それで、エルヴィーラ様は何をやらかしてるの?」

 移動方法や雨の日の話をしたら、テオドール様は爆笑していた。


「意味わかんねぇ! さすがだよ。俺も気になるから、メモを取っといてくれ。後でクリスに聞きに行こうぜ!」


 エルヴィーラ様という生き物が、ますますわからなくなった。同じ一組の友人でさえ意味がわからないなんて。


 翌日、順調に探索を続けている時、上がった救援信号を見たら何とデポラ様のいる班だった。

 デポラ様が苦戦するって何だと思ったが、班員の誰かに問題があるのだろう。


 エルヴィーラ様が助けたいと言うので向かった。もう何が起きても驚かないと思っていたのだが。

 到着後はもう、デポラ様とエルヴィーラ様の殲滅戦が展開されただけだった。俺たちは全員ほぼ観客。


 デポラ様が最前線で森狼を薙ぎ払い、それを完璧に補佐するエルヴィーラ様。

 俺たちはデポラ様に怯えてか、こちらに流れて来た森狼を始末するだけ。それにすらエルヴィーラ様の補助が入った。


 デポラ様は勿論無傷で元気で。ただ班員には厳しいと判断し、安全策での救援信号だった。

 予想通りだったが全てが予想通りじゃなかった。本当に、あの鈍くさい人は何処へ行った。


「ありがとう、エル。皆さんも。救援に来てくれて助かったわ」

「デポラが無事で良かったよ!」

 俺たちは役に立てたでしょうか……。

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