第18話 明るく気さくな侯爵令嬢 3

「諦めるのは早いぞ。いやいや、今議論されている魔法は無理無理。そっちじゃなくて、エルヴィーラ様への質問の仕方のコツがわかったかも」

 ヴィルマーが言った。


「コツ?」


「ああ。エルヴィーラ様、俺たちにもヴィリに言ったキュッとを教えて欲しい」


「キュッ?」


 ヴィルマーに声を掛けられて振り向き様にキュッ? とか言う美人がアホ可愛いなと思った。

 ただ、直ぐにディートリヒ様からの鋭い視線を感じたので、何も気付いていないフリでなかった事にした。


「具体的にヴィリはどう魔力を無駄にしているのだろうか」


「あー、えっとねぇ、見せた方がわかりやすいかな? 水魔法で見せるね」


「お願いします!」


 ヴィルマーもヴィリも知識欲優先で、俺と同じ様にディートリヒ様からの視線には気付かなかったフリをする様だ。

 いや、俺だけがアホ可愛いと思っていたのかもしれない。アホな犬とか猫とか見ると、可愛くて仕方がないので。


「あの的の中心を水魔法で打ち抜くとしたら、こう、水をキュッとして出すでしょ?」


 そのキュッとは雰囲気が俺にもわかるぞ。エルヴィーラ様は実際にやって見せてくれた。

 気軽にしてくれているが、かなり高度な魔法になっている。スピードは速いし密度も凄い。的には綺麗な小さな穴が開いた。


「で、ヴィリさんはこんな感じ」


 次にやって見せてくれたのは、的に向かうのとは別に、指からピューピューだらだらと水が漏れていた。


「使った魔力の量は同じだから、漏れている分が勿体ないでしょ?」


「あー、俺そんな感じなんだ」


「ヴィリさんは魔力は見れる?」


「うすらぼんやりと」


「はっきり見えた方が有利だよ。魔法を使う前に魔力が集まったり動くのが見えるから、相手にも対応しやすくなるでしょ?」


 失礼ながらエルヴィーラ様に対する勝手なイメージで、そんな事をしているとは思っていなかった。

 俺もヴィリと同じうすらぼんやり状態だから、はっきり見えた方が格段にわかるのだろうという事はわかる。


「いや、あんまりはっきり見過ぎると、一人だけ違う世界にいるみたいな視界になるから程々で充分だぞ。逆に普通のものが見えにくくなるからな」


 こちらの話も聞いていたらしいテオドール様から注意が入る。この人は何だかんだで面倒見がいいのだと思う。


「確かに。魔力量の多い人を本気で見たら、もうもやもやして顔とかわからなくなるね」


 この人は見ようと思ったらどこまではっきり魔力を見れるのか。


「漏れない様にどうしてますか?」

 質問のコツを掴んでいるらしいヴィルマーが質問を重ねる。


「うーん? 魔力をギュッと集めてる。後はそれ以外にはいかないように、留めてる感じ?」


「留める……」

「んーとね、ホースから水を出す感じ」


 たとえが庶民派過ぎる。俺はウテシュで訓練に参加していた時に訓練場の整備で使ったが、普通の令嬢は見た事もない可能性が。


「ホース?」

 ヴィルマー……。

「ストローでも」

 まさかのエルヴィーラ様が適切な追加説明をしたので、なんか胸が熱くなった。なんだこの感じ。


 今度はこちらでもこうかなああかなと試行錯誤を続け、繰り返すうちに段々魔法の感覚を掴んで来た。


「おおー、凄くいいよ!」


 少しでも改善されると直ぐにエルヴィーラ様が褒めてくれるので、とてつもなく捗る。楽しい。


「魔力量が多くはないのに、これだけ魔力を無駄にしていたなんてな」

「それな」

 ヴィリにすぐさま同意する。


「ヴィリさん以外は魔力操作も練習しなきゃ。必要以上の魔法も魔力の無駄になるでしょ?」

 痛いところを突かれた。


「訓練は続けているんだが、俺は今後どういう訓練をしたらいいと思う?」

「今はどんな訓練をしてるの?」


 ヴィルマーが大丈夫かと思うくらいガンガンいくが、エルヴィーラ様は気にせず対応してくれる。


「あー、なるほど。この辺とかもっとサラサラって」

「流れが悪いってこと?」


「そうそう」

「サラサラにするコツは?」


「えっとねぇ……」


 意味を理解するのに時間はかかるが、教員よりも的確な指摘なのかヴィルマーがどんどん変わっていく。

 何この夢空間。他の皆に自然と目配せをした。皆もエルヴィーラ様から個人的に修正箇所を教えてもらいたいらしい。ここは礼儀正しく順番待ちをすべく、まずはじゃんけんからだ。


 ずっと俺たちにエルヴィーラ様がかかりきりだった為か、ディートリヒ様の視線が鋭くなっている。

 俺は鈍感、気が付かないことにしておこう。そうしよう。恋愛の意味で好きになったとかじゃないから大丈夫。


 非常に有意義な時間だった。


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令嬢と小姑(男)のあれこれ その後 相澤 @aizawa9

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