第11話 謎の生き物 1

 雨で早めに夜営を決めたが、テントの設置などで時間がかかるはずが、エルヴィーラ様のお陰で時間に余裕が出来た。

 食後の休憩という表向きの理由で、それぞれがエルヴィーラ様の意味不明な魔法に混乱した自身を落ち着けたい雰囲気となった。


 テントに入るとエルヴィーラ様以外の全員が何らかの悲鳴を上げた事で即刻再集合した。

 テントは浮いている。なら自分の体重でテントの床部分がたわむはずなのに、何故かベッドの上にのった心地だった。

 そら悲鳴も出るというもの。ちなみに俺は静かに絶句した。


「えー!」

「嘘だろ、おい」

「ゆゆゆ、床が!」

「どうしました?」


 一人だけ落ち着いている人がいる。もちろんエルヴィーラ様だが。


「柔らかいです、床が!」

「あ、はい。この方が寝心地いいですよね。もっと柔らかい方がいいですか?」


 そういう問題じゃない。調節も可能なのか。本気でこれどうなっているの。


 エルヴィーラ様は普通に返事をしてくるが、聞きたい事があり過ぎて皆がやけくそ気味にエルヴィーラ様に話しかけまくった結果、打ち解けた。


「エルヴィーラ様の魔法は、本当にぶっ飛んでて凄い!」

「そう?」


 エルヴィーラ様が嬉しそうにするので、ヴィリが勢いのまま色々と聞いてくれたが、誰も理解できなかった。


「エルヴィーラ様ってば、料理上手!」

「本当? 料理を褒められると凄く嬉しい! 移動で迷惑をかけているから、喜んでくれているなら良かったよ」


 自覚が充分にあるのはわかっていた。距離の取り方に悩み、フォロー出来ずに申し訳ない思いが沸き起こる。

 それは他の皆も同じ様で。ヴィムが熱心に料理のあれこれを聞いた後──意外にも料理の説明は普通だった──皆が次々にエルヴィーラ様の動きの改善点をレクチャーし始めた。


「苔がある時の滑らない様に歩く歩き方なんだけど……」

 ヴィリ。それな。逆に必ず滑るのは何故なのか。


「石の上を歩く時には……」

 ヴィルマー。それな。何かいつも危なっかしい。


「木の枝が邪魔な時は……」

 ヴァルター。それな。押さえた枝は戻って来ると敢えて伝えた方がいいのか?


 皆が次々にエルヴィーラ様の動きの改善点をレクチャーし始めた。俺はのんびりとココアを飲みながらそれを聞く。

 心の中では饒舌だが、今は班員が交流するのを班長として見守ろうと思う。


 ちなみにココアはいつの間にかエルヴィーラ様が淹れて出してくれた。気が利く、じゃなくて、いつ荷物に加えたのか問い詰めるべきだろうか。

 美味しいし、体が温まるけれど。


「なるほどー」


 エルヴィーラ様はレクチャーを嫌な顔どころか、とても熱心に聞いている。実際に試しているのを見ると、なかなか現実は厳しい気がするが。

 返事がふわふわした感じなのは最初からなので、こういう人だと理解して、誰も気にせず更に真剣にレクチャーをしている。いい班だと思う。


「いい成績が取りたい。皆の力を合わせて協力すれば、何とかなるよな」


 一通りレクチャーが終わった後にヴィルマーが言った言葉には、俺も同じ気持ちだったので同意する。


「そうだな。この班はまとまりがいい」


 エルヴィーラ様は運動神経は残念かもしれないが、向上心はある。それに最初に比べればかなりマシになっている。

 他の班員も同じ気持ちだった。移動に時間がかかるが、この感じならそこそこの成績が望めると皆も思ったのだ。


「皆さん凄く落ち着いているから、肉体的な訓練重視で違うのかなって思ってました。明日からはガンガン奥に行きましょうよ! 皆で頑張りましょうね!」


 にっこり笑顔のエルヴィーラ様に和む。戦闘の貢献度は凄いが、奥に行く為の移動で足を引っ張っているのはエルヴィーラ様ですけれどね、などと思っていた昨日の自分をひっぱたきたい。


 朝食後、「じゃ、魔法かけますね」とエルヴィーラ様が全員に軽い感じで魔法をかけてくれた。


「最初は違和感があると思うから、近場で練習してみて」


「わかりました」


 魔法で補助されたのは感覚でわかる。補助された時の自分の動きがどういったものになっているかを確認しておかないと、魔獣と遭遇した時に困る。

 それぞれが近場で軽く動いたり、班員同士で剣を打ち合わせたりして今の自分の動きを確認していく。


「すげー、どうなってんの?」


「昨日教えてもらって山歩きのコツがわかってきたから、色々かけたよー」


「俺、魔法が得意だと思っていたけど、自信無くなって来た」


「えー? ヴィリさん魔法操作上手じゃない」


「……そう、か、な?」

 最高峰に褒められて、嬉しいやらレベルが違い過ぎて困惑やらだな。


「操作はそのままに、魔力の節約とか頑張ったら、もっと色々出来るんじゃないかなー?」


「えーっと、コツとか……」


 また理解出来ない説明をされると思いつつも、聞かずにはいられなかった感じだな? 気持ちはわかる。

 俺も節約方法を知りたい。他の班員も聞き耳を立てているのがわかる。


「えーっと、魔法を放つ時、変換されないままの魔力も一緒に放出されているから、それをキュッとしめるとか」


 そのキュッとの部分を具体的に知りたいです。


「キュッと……」

 ヴィリが思わずといった感じで謎な部分を繰り返した。


「そうです。キュッと」


「キュッ……」

 駄目だった。キュッって何だ。キュッって。そこをもっと具体的に!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る