第6話 ポンコツ令嬢の取り扱い 1
ヴェンデルはごく普通の伯爵家に生まれた。魔力量はそこそこだったが、有り難い事に魔法の才能も悪くなく、とにかく運動神経が良かった。
父が早くから人脈作りを頑張ってくれたお陰で、ウテシュ伯爵家で行われる訓練に参加する事ができた。
ウテシュ伯爵家では家格による差別が無く、実力主義。そういう事にこだわる人も自然といなくなるので、学ぶのに本当に最高の環境だった。
毎日が楽しくて真面目に訓練して来たからか、中央魔法学院への進学が決まった。その時は家族が努力が実ったねと盛大にお祝いをしてくれ、これからだと思いつつも誇らしい気持ちにもなれた。
学院はやはり家格がちらつく環境で、ウテシュ伯爵家の傘下に入っていなければもっと苦労したと思う。
近い家格の友人も出来て、色々な事はあったが基本的には楽しく充実した日々を過ごしていた。
そのまま無事に中央専門学院への進学も決め、日々の訓練や勉強に追われつつも充実した日々を送っていた。
間もなく恒例の春の野外訓練がある。家格が低い自分としては、ややこしい相手と同じ班になるのだけは嫌だった。
願わくばデポラ様や、評判の良いクリストフル様と同じであればなどと欲をかいたせいだろうか。
侯爵令嬢のエルヴィーラ様と同じ班になってしまった。先に決まっていた班員と共に、思わず固まってしまった。
挨拶をして、気を使いながらも持っていく荷物などの軽い打ち合わせをした。
その後、エルヴィーラ様を抜いた他の班員五名が自然と集まり、話し合いの場を持った。
「どうする、侯爵令嬢」
ヴィリが言う。ヴィリは中肉中背で目立たないが、隠れイケメン。
「どうするって、俺、話し方からして怪しいと思う。マナー全般も怪しいし」
ヴィムが言う。ヴィムは可愛らしい見た目に反して、強気な性格をしている。
「それは俺も……」
ヴァルターが言う。ヴァルターは同級生の中でもかなり大柄で、普段は無口だが必要な時にはきちんと話す。
「俺も長時間は無理だ」
ヴィルマーが言う。ヴィルマーは知的な雰囲気でシュッとしていて、何か都会的な男に見えるが、中身は面倒見のいい田舎のお兄さんぽい感じだ。
「そもそも女性と何を話せばいいのか」
俺。
思った通り、全員が侯爵令嬢の扱いに困っていた。
「ちっさいよ、な?」
魔法が得意なヴィリ。
「ああ。ちっさいな」
剣が得意なヴィム。
「野外訓練とか耐えられるのか?」
見た目通り剣が得意なヴァルター。
「体格は……関係あるか、やっぱり」
一応どちらも出来る俺。
「見るからに体力なさそうだな」
どちらも出来るヴィルマー。
見た目で人を判断してはいけないが、どう考えてもか弱く見える。体当たりしただけで、勝てる気がしてしまう。
いや、絶対にそんな事はしないが。うっかり当たってしまっただけで、吹っ飛びそうな予感が。
「接待、かな?」
ちょっと暗い表情になったヴィリ。おそらく、想像しただけで嫌なのだろう。
「仕切られるかな?」
冷静に懸念を指摘するヴィムは、無表情になっている。
「仕切れるのか……?」
不安そうな顔のヴァルター。確かにそれは俺も感じた。やる気だけでは困る。
「天然そうだよな」
ヴィルマーの言葉に全員が肯定を示した。少し話をしただけで感じるという事は、きっとそういう事だと思う。
「ああ。何故自分をヴィーラと呼ぶかと聞かれたのか、未だにわからない」
俺。
何故か凄く真剣な表情だったのを思い出す。結論として、少し話しただけではあるが、ほわわんとしていて上手く仕切れるタイプには見えない。
「過剰な接待を望まれると困るな」
ヴィルマーの言葉に全員が渋い表情になる。
「そうだよな。そうなると、そこそこの成績を狙うのさえ怪しくなるよな」
ヴィム。
「接待か。上手く出来る自信が無い」
ヴァルター。
「俺も全然無いよ」
ヴィリ。
結局ウテシュ伯爵家に出入りしていた俺が、必要な時は代表してエルヴィーラ様に話しかけることになった。
そのまま俺が野外訓練での班長をして欲しいと言われたが、正直自信はない。それも、エルヴィーラ様に反対されなければの話だが。
魔力量は豊富でも侯爵令嬢に実践経験があるとは思えないので、五人で集まって戦う場合の確認を入念にした。
雰囲気で普段も、しばらくの間はそのまま俺が仕切ることになった。
「誰か、エルヴィーラ様と同じ授業はとっていないか」
俺の問いかけに全員が首を横に振った。残念な結果ではあるが、予想の範囲内でもあった。
「まずは情報収集だな」
接待にしても、どういう相手か知るのは重要だと思う。全員が頷いて情報収集をする事になった。
「エルヴィーラ様? 噂によると、デポラ様と仲が良いらしいぞ」
それは俺も聞いたことがある。
幼い頃からウテシュ伯爵家で訓練に参加していても、デポラ様とでさえほとんど話をした事が無い。
可愛い娘の怪我を許さなかったウテシュ卿が、デポラ様の相手は格上の実力者しか許さなかったせいでもあるが、話しかける根性も無かった。
普通は爵位の壁は高い。ルイーゼ様やスヴェン様がいい例だったと思う。
出世に人脈は必要と聞くけれど、それでもトラブルなどを考えて近付こうとは思わなかった人たちだ。
「美人……」
「最近儚い雰囲気が消えた」
「明るくなった気がする」
美人という意見が一番多かったが、見た目はどうでもいい。それは見れば誰でもわかる。
「お菓子が美味しい」
「魔法は凄いらしいぞ」
「運動音痴を極めているらしい」
「優しいらしい」
周囲の話を聞く限りは、エルヴィーラ様はかなり気さくな方らしい。けれどまともに話した事のない人からしか話を聞けなかった。
交遊関係の狭さを今さら悔やむ。友人たちには、訓練としてはとんだ貧乏くじだなと笑われるばかりだ。
そのままエルヴィーラ様を除いた班員で集まる日になり、大した情報を集められないまま皆と会う事になった。
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