第5話 ポンコツ令嬢の野外訓練 4

 翌朝。朝食はパンを温めて、上にとろけるチーズと生の大根を少し。大根は食感を楽しむ用。

 物足りない人は干し肉やナッツ類を各自で。これにフルーツもあれば良かったんだけどなー。


 フルーツもベースキャンプにあったけれど、林檎以外は持って行くのを却下された。スープばかりもワンパターンだし、次はどうしようかな。


「スープばかりって、毎回ワンパターンだよねぇ……」

「食材が限られているので、それは仕方がないでしょう」

 ヴィリさんがフォローしてくれる。いい人だ。


「でもなぁ……」

「ポトフが、また食べたいです」

「私は最初のシンプルなスープが」


 可愛い人とおっきな人がそう言ってくれた。思っていたよりスープが好評だった。ちょっとずつ変えているだけでも満足してもらえているなら良かった。

 やっぱり荷物がリュック一つ分で、空間収納封印は痛いよね。全員に魔法をかけていざ出発。


「体が、軽い……!」

「いつもより、高く飛べる……?」


 最初は戸惑っていたが、皆直ぐに慣れてくれた。一番危ないのは私。魔法の補助で思った以上に体が動くので、ちょっとしたミスで木に当たりそう。

 ヴェンデルさんの心配そうな視線を度々感じるわ。魔法で避けるから大丈夫なのに。お兄様やディーと同系列の過保護な人なのかな。


 移動に余裕が出たので、昼ご飯と夕ご飯を考えながら探索した。

 途中で救援もしたけれど、この班は全く危なげがなくていい。仲良しで堅実って重要だよね。


 翌日はデポラ、更にその翌日にはクリスの班を救援した。

 途中で完熟しているベリーを見つけて、皆でわいわい収穫もした。


 その夜はデポラの班と夜営が一緒になって、二人でベリーパイを焼いてとても楽しかった。

 話もしたけれど私の班は雰囲気も成績に関しても、結構いい感じじゃないかと言われた。ふふん。皆いい人ばっかりだもんね!


 訓練六日目。結構山奥まで来ているので、ベースキャンプへ戻り始める。そろそろ食材も少なくなって来たし、トマトやキャベツを解禁してもいいだろうか。

 出した瞬間、ヴェンデルさんが何とも言えない顔で私を見て、ヴィムさんはとっても嬉しそうな顔をした。


 昼食はトマトとキャベツ、ベーコンのスープ。訓練六日目のトマトスープはテンションが上がる。


「ねぇ、タッパー何個持ってるの?」

「えーと、八個?」

「そらリュックもパンパンになるわな」


 ヴィルマーさんが呆れつつも、タッパーを引き取って皆で分担してくれた。優しい。

 さて、食事です。匂いで皆がそわそわし始めているのには気が付いているぞ!


「沁みるわー」

「美味い……!」

「六日目でこの食事は……最高!」


 そうだろう、そうだろう。狙い通りですよ!

 最後の方はパンと干し肉だけになると思ってたでしょ。野菜が足りなくなると思ったんだよね。


「夕飯はこのトマトスープのチーズ入りバージョンかな」

「やった!」

「エルヴィーラ様最高!」

「どこまでもついて行きます!」

「お任せします!」


 皆ノリがいい。仲良し最高。


 もう終わりが見えている事もあって、体力的にも精神的にも皆に余裕があり、ちょっと夜更かしして楽しく話をした。

 事前に立てた計画通りの所まで戻って来られているので、明日の昼過ぎにはベースキャンプに到着予定になっている。

 トラブルがあっても、日暮れまでに余裕がある行程も素敵。


 最終日も順調に進んで、後一時間で確実にベースキャンプへ着くと言うので、昼は残り物全部スープにした。

 食料に余裕があったので、最後の最後でボリュームがっつりだったからか、最後まで食事が好評だった。


 最初は名前から山歩きまで全部どうなる事かと思ったけれど、全員の名前も覚えられたし、楽しかった。

 ベースキャンプでは自然とそのまま班行動で楽しく過ごした。夕食後はデポラやディーとわいわいした。


 夜になって気持ち良く熟睡したので、一番帰りが遅かった班が夜半に戻った事も知らなかった。

 そもそも夕食の時に、まだ戻っていない班があるという事にさえ気が付いていなかった。


 翌朝早朝。学院に帰る馬車は自由だったので、ディーと二人で他のグループの馬車に相乗りする事になった。

 デポラは班員の疲れを心配していて、遅めの馬車にすると聞いていた。クリストフルは別で帰るらしい。


 馬車の中ではディーに訓練中の話を聞かれて、色々と話をした。


「エル……、訓練中なのに、ご飯の事しか考えてなかったの……」


 呆れた様に言われているが、否定できない何か。


「だって、楽しみなんてそれくらいしかないじゃない」

「うん、まぁ、そうだね。僕も美味しいご飯を食べたいよ」


「ストックあるし、今日は部屋に食べに来る?」

「……行く! 甘い物も食べたい」

「わかったー」


 ディーの班の食事事情はあまりよくなかった模様。ディーは包丁使いが怪しかったもんね。これは次回に備えて特訓だね。


 この時偶々同じ馬車に乗り合わせた人々は、侯爵家二人の余裕過ぎる野外訓練の話に恐れ戦いていた。

 ラブラブな雰囲気も見せつけられ、もんもんとすることになった。彼らも婚約者とイチャイチャしたい。

 だがしかし、偶々ではあるが、今この馬車に婚約者がいる令息はいなかった。


 一週間ぶりのディーをたっぷり堪能したくて、食事の後はソファに並んで座って引っ付いてお茶を楽しんだ。

 ディーの班は野営が初めての人が四人もいて、あれこれ説明しながらゆっくり山を楽しんだらしい。


「あー。久し振りのエルが最高」

「私もー。ディーのにおい最高」


「え、においなの?」

「うん。後、体温とか?」


「えっ? におい? 体温?」


 落ち着き過ぎて、ディーに引っ付いたまま寝てしまったみたい。起きたらちゃんとベッドで寝ていた。

 ディーがベッドまで運んでくれたらしく、ちくりとノーラに注意された。だって安心しちゃったんだもん。

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