第4話 ポンコツ令嬢の野外訓練 3

 翌日早朝、いよいよ訓練開始。全部で二十班あるので初日の野営地は異なる場所を指定されているが、後は自由行動。

 野外訓練の評価基準は魔獣の討伐数、救援数、協調性など。救援は安全に問題があると感じた場合は直ぐに行うこと。


 救援依頼そのものは減点対象にはならないが、薬で対応できない程の怪我人が出た場合は減点対象になる。

 救援は空に打ち上げる魔法で依頼出来て、班の数字が上がる。救援に行くかは各班の判断で、先生も駆け付ける。


 出発の時に班員に荷物が多過ぎないかと言われたが、こっそり増やした野菜については言えない。

 だってほとんどの荷物を持ってくれるから、食事くらい頑張ろうと思ったんだもん。適当な言い訳で目を逸らした。


 そして山を登り始めたら、今日は班員がいつも以上に優しい気がする。


「そこは苔がありますよ。見た目より分厚いですから、気を付けて下さい」

「ありがとう。気を付け……!」

 班長に言いながら滑って、後ろにいたおっきな人(ヴァルター)に腕を掴んでもらって難を逃れる。


「苔などがあっても、滑りにくい歩き方を教えましょうか」

 知的な感じでシュッとした、知的さん(ヴィルマー)の提案に被せ気味でお願いする。


「お願いします!」

 これは大分練習させてもらったけれど難しい。他にも行き先の木の枝を少し払ってくれたりもした。


 足場が大きな岩だらけの場所を移動中に滑った時は、かなり焦った。


「……!」


 岩と岩の間に落ちていく時に、班長さんと目が合った気がする。申し訳ない。皆で岩の隙間から引き上げてくれた。


 誰も怒らないし、イライラしたりもしていない様子。班員の優しさに涙が出そうです。

 多分昨日最後だったから親切なのだと思うけれど、優しさが有り難い。お礼はご飯と戦闘で返します!


 朝食はベースキャンプで職員が用意した物を食べたので、最初に頑張るご飯はお昼ご飯。川近くにある開けた場所で最初の野営御飯になった。

 皆が分担して持ってくれている調理器具などの必要な物を出してもらい、薪を集めてくれている間に材料を切る。


 言わずとも延焼防止機能が付いたシートの真ん中の穴が開いている部分に薪が積まれ、焚火の上部分に鍋を吊り下げる器具を設置された。

 何も言わなくても手伝ってくれるのが嬉しいです。


 鍋に魔法で水を入れ、薪には火魔法で着火。材料を入れてコトコトだけれど、時短したくてこっそり圧力鍋風に。

 蕪と塩豚のスープ。まだ体力にも余裕があるだろうし、こんな感じでいいだろう。硬い日持ち重視のパンを、スープに浸して食べる。


「美味しいです、エルヴィーラ様」

「口に合って良かったです」


 可愛らしい雰囲気の班員(ヴィム)が笑顔で美味しいと言ってくれた。簡単なスープだけれど、好感触で良かった。


「味付けは何でしているんですか?」

「塩胡椒とハーブくらいですよ」

「以前私が作った時とは、味が全く違う気がします……」


 知的さんが言う。


「塩豚が保存優先でかなり塩を擦り込んであるから、その分の味の加減じゃないですか?」

「塩豚って、そういう?」

「んっ?」

「あっ、いえ……」


 塩豚を食べた事ないのかな? 塩豚を何だと思っていたんだろう?

 皆が美味しい美味しい言ってくれるので、お世辞でも少しは恩返しが出来て良かった。


 実はヴィルマーは野営訓練以外で料理をした事が無く、塩味キツめの塩豚という種類の豚がいると思っていた。

 ヴィルマーは伯爵家の長男で、伯爵を継ぐ予定になっている。ガロン侯爵家に嫁ぐことが決まっている侯爵令嬢が料理に詳しい事に、尊敬の念を覚えていた。


 昼ご飯の後にようやく初森狼と遭遇した。まだ山とは言っても浅い場所にいるからか、森狼は五体。

 森狼は魔法でお互い意思疎通をして、複数で一人を狙って来るが、一体ずつ集中できるようにすれば大丈夫だと思う。


 先頭を行く班長さんに三体が襲い掛かろうとしていたので、風魔法を飛ばして分断する。

 そこにすかさずおっきな人が割り込んでくれたので、直ぐに一対一が完成した。


 分断した最後の一体は闇雲に近場に襲い掛かる訳ではなく、残りの二体と連携して後方の私たちを狙う動きを見せた。

 風魔法でスパッとしようかと思っていたが、そこに別の二人が割り込んでくれた。連携がしっかりしているなと思う。


 最初の森狼を始末した班長さんが、さりげなく私やもう一人の魔法メインの人には狼が行かない様に気を遣いつつ参戦して、初戦は無事終了。

 この班長さんがデポラが言っていたヴェンデルさんだと思う。顔と名前が一致していなかったが、デポラに言われてどういう人かだけは覚えていた。


 幼少の頃から見込まれて、ずっとウテシュ伯爵家の訓練に参加しているそう。

 ウテシュ伯爵家の訓練に継続参加しているなら、優秀なのは当然として人格にも問題はないとお墨付き状態。


 困ったらヴェンデルさんに頼って相談しろと、デポラに言われていた。本当にさりげないけれど優秀だと思う。

 だがしかし、どうやって名前が合っているか確認しようか。

 誰かが呼ぶのをじっくり待って、正解だとわかった。


 森狼の討伐がかなり順調だったので、夜は余裕を持って夜営地に着いた。

 移動の遅れを戦闘で取り戻せたみたいで安心する。夕ご飯はどうしようかな。


 火魔法で水分をこっそり飛ばして飴色玉ねぎを作り、オニオングラタンスープっぽくしてみた。

 お肉は干し肉をお出汁で戻して焼いてみた。まぁまぁかなぁ。干し肉は普通にスープに投入の方が良さそう。


 食事の後は明日の打ち合わせ。当然だけれど、もっと奥を目指す。

 野営地は魔物除けがされているので、防護魔法を張る必要は無い。明日に備えて魔法のテントでお休みなさい。


 二日目は昼から雨が降って来た。結構な土砂降りで私が上手く歩けずにかなり迷惑をかけたが、今回も誰も怒ったりしなくてほっとした。

 日が暮れるまでに夜営予定地には到着できないとの判断で、出来るだけ平坦な場所を選んで急遽夜営することになった。足が遅い私のせいで申し訳ない。


 せめてご飯は頑張らなければ。日中は暖かいけれど夜は冷えるし、雨でかなり体も冷えている。

 温かいものは必須だよねぇ。蕪、人参、玉ねぎ、塩豚でポトフにしよう。かぶの葉っぱも使ったので、それなりにボリュームもあると思う。


 無理をせず早めに移動をやめたので、余った時間で木の実パイも作った。多めに作って余った分は、小腹が空いた時に各自で食べられるようにもした。

 とても好評だったので嬉しい。話すうちに雰囲気も良くなって、段々馴染んで来たので色々な話をした。


 訓練重視派で自らを追い込むタイプの人たちだと思っていたが、実は皆好成績を狙っている事を知った。

 だったら、ねぇ。魔法をもっと使っちゃおうよって思う。

 山歩きの注意事項もわかってきたし、明日からはガンガン行こうぜ。眠る前に、どんな魔法がいいか考えた。

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