第389話 参妃/幼馴染ラプソディー③
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刀歌からの連絡は要約するとこんな感じだ。
まずは今夜十二時、我霊退治に付き合って欲しいと。
標的は廃ビルに潜んでいるというD級
剛人と刀歌の二人ならば確実に対応できるランクだった。
もう一つは、特殊な霊具を見つけたので試して欲しいとのことだった。
何でも、剛人の術式と相性が良さそうな霊具らしい。
もし良さそうなら、今回の報酬の一つとしてそのままくれるそうだ。
二人だけの真夜中のデート。
しかも愛しい少女からのプレゼント付きという話だ。
剛人が浮かれてしまうのも仕方がない。
(こいつはチャンスだ。そして切っ掛けにするんだ)
迷彩柄の私服姿の剛人は思う。
こうしたことを積み重ねて。
幼馴染から徐々に相棒の立場へと向上させて。
いつかは恋人へとクラスチェンジさせるのだ。
現状、悠長にしていられない事態であることは分かっている。
話を聞くと、刀歌はまだ第一段階の隷者らしい。
それは、あのオッサンはまだ刀歌に手を出していないということでもあった。
意外と生真面目そうなオッサンだったので、刀歌が結婚できる歳まではとか考えているのかもしれない。そこは共感できるのだが、それもいつまで持つかは分からない。
なにせ、刀歌ほどの魅力的な美少女だ。
いつ魔が差してもおかしくはない。
やはり、悠長に状況を眺めているだけなど悪手だった。
あのオッサンの魔の手が迫るまでに刀歌の心を取り戻さなければならなかった。
だが、急いては事を仕損じるとも言う。
ましてや相手は刀歌だ。稀代の堅物少女である。
(まずはもっと信頼を。そんで吊り橋効果に期待だな)
市街の裏路地。
目的の廃ビルを前にして剛人は思う。
焦燥感は常に胸を焼くが、ここは慎重にならなければならない。
今日の目標としては、次も一緒に仕事する約束をこぎつけることか。
廃ビルを見据えつつ、そう考えていた時。
「うん。早いな。剛人」
不意に後ろから声を掛けられた。
刀歌の声だ。剛人は「おう」と振り返る。と、
(うおッ!)
内心で驚いた。
刀歌は白い
彼女の抜群なスタイルが良く分かるスーツだった。
左腕には『参』の腕章を着けている。
剛人は初めて見るが、それは参妃専用の戦闘服だった。
ただ現在、礼服のみならず戦闘服の方も統一性を持たせようと、壱妃監修のもと、改めて妃専用の戦闘服を制作中なので、この服はそれまでの繋ぎとなるのだが、それは別の話だ。
いずれにせよ、その艶姿に剛人の心臓はバクバクだ。
しかし、刀歌の方は気付かない。
「来てくれて良かった」
ニコッと笑う。
「事前に伝えたが、今日はお前に似合いそうな霊具を手に入れたんだ」
言って、虚空を開いて、そこからある霊具を取り出した。
それはいわゆる
刀歌はそれを両手で持って広げた。
盾を思わせる長い六角形を連ねた黒い紋様を持つ、白い法被だった。
「《
刀歌は霊具の名を告げた。
「何でもまだ世に出ていない新作らしいぞ」
「へえ~」
純粋な好奇心を抱いて、剛人はまじまじと法被を見つめた。
「どんな霊具なんだ?」
「お前とは相性のいい霊具だぞ」
そうして刀歌は霊具の性能を語る。
剛人は「へえ」と感心した。
次いで、刀歌から法被を受け取って袖を通した。
「こいつはいいな」
剛人はニカっと笑った。
「性能も良いが、サイズがぴったしだ。まるで
「あ、ああ。そうだな」
刀歌は少しどもりつつ頷く。
視線がやたらと近くのビルの陰の方へと向くが、浮かれている剛人は気付かない。
「ありがとよ! 刀歌!」
素直に感謝を告げた。
「喜んでくれてよかった」
刀歌も笑う。
「じゃあ、準備も出来たしな」
「ああ。そろそろ行くか」
そうして二人は廃ビルの中へと入っていった。
◆
「懐かしいな」
ガラスの破片などが散乱した廃ビルの廊下を進みつつ、刀歌は言う。
「こうして二人で
「おう。そうだな」
腕を組んで剛人は頷く。
「ドーンワールドじゃあ、一応あのオッサンもいたからな」
「……お前な」
刀歌はジト目で剛人を睨みつけた。
「主君をオッサンと呼ぶな。あの人は私の旦那さまなのだぞ」
そう告げる刀歌に、剛人は思わず「うぐッ」と呻きそうになるが、
「そ、そうだな」
どうにか呑み込んでそう答えた。
迂闊にオッサンの話をすると大ダメージを受けそうだ。
「しかし、本当に懐かしいな」
刀歌は双眸を細めた。
「憶えているか? 私たち二人で初めてした我霊退治を」
「ああ。憶えてるよ」
剛人は苦笑を浮かべた。忘れるはずもない。
「俺らが十二歳の時か。相手はE級
剛人はその時のことを振り返る。
「
我霊は刀歌が斬り伏せた。
ただ剛人の方は終始、琴姫を守り続けることになった。
剛人の縁戚である黒田琴姫。剛人と刀歌の共通の幼馴染だ。
剛人にとっては可愛い妹分だ。昔から剛人のことを『剛人
しかし、剛人の縁戚でも、琴姫自身は
我霊の存在は知っているが、ほぼ一般人だ。戦闘の才もなかった。
そんな彼女を守るのに、幼かった剛人は必死だった。
「琴がお転婆なのは刀歌の影響じゃねえのか?」
冗談めかしてそう告げる。
「そ、そうか?」と、刀歌は視線をそわそわと泳がせた。
それは別のことで挙動不審になっているのだが、剛人は「ははは!」と笑った。
「と、ともあれだ!」
刀歌は勢いよく言う。
「今は我霊に専念だ! あの頃よりもランクが一つ高いのだからな!」
「ああ。そうだな」
――ガァンッ!
剛人も両の拳を叩きつけて言う。
その拳は銀色に変わっていた。
――《
金堂家の
「早速、お客さんも来たようだしな」
「ああ」
刀歌も頷く。
幼馴染の二人の前。
そこには醜い化け物がいた――。
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