参妃/幼馴染ラプソディー

第387話 参妃/幼馴染ラプソディー①

 深夜十二時。

 誰もいない閉ざされた部屋にて。

 ボッと。

 ふと暗闇の中に鬼火が灯る。

 それは一つ、二つと増えていく。

 やがて百を超える鬼火が集まった。


『……ようこそ』


 最初に現れた鬼火が語る。


『今宵の進行役は私、蝶花が務めさせていただきます……』


 そう告げるが、鬼火たちは何も返さない。

 ただ、この場から消える様子もない。


『今宵、私が語るのは身の毛もよだつ無残な話』


 ボボボッと蝶花の鬼火が震えた。


『私が経験した、あまりにも恐ろしい参妃さまのお話でございます』


 他の鬼火たちは未だ無反応だ。

 だが、そこには何かを期待する緊張感があった。

 そうして、


『それでは語りましょうか……』


 参妃の専属従霊は重い口を開くのだった。


『そう。あれは参妃さまが高等部に進学したばかりの頃でした――……』



 時節は四月。

 まだ久遠桜華が漆妃となる前の頃。


 参妃・御影刀歌は、星那クレストフォルス校の高等部に進学した。

 無事にJKにランクアップしたのである。

 放課後。刀歌は一人、廊下を進む。

 それだけで校内に残る生徒たちの視線が集まった。

 それも仕方がないかもしれない。なにせ、刀歌の容姿は目立つのだ。

 百六十後半ほどの長身に、大きな双丘と引き締まった腰。四肢もスラリとしている。

 まさに抜群のスタイルだった。顔立ちも凛々しく、白い制服によく映える艶やかで長い黒髪は、頭頂部近くで白いリボンで結いでおり、歩くたびに左右に揺れる。

 刀歌が校内の廊下を歩くと、よく最高学年と間違わられた。着飾った洋服を着れば、きっと大学生とさえ勘違いされる。

 ある意味で、刀歌の存在は校内で浮いていた。

 しかし、嫌われている訳ではない。むしろファンクラブまであるほどだ。

 刀歌は中等部の頃から有名人だった。


 ――《魂結びの儀ソウルスナッチ・マッチ》の廃絶を提唱する者。

 それが御影刀歌だった。


 彼女は進んで《魂結びの儀ソウルスナッチ・マッチ》に挑んで、無理やり契約された生徒たちを解放していった。

 その姿は、まるで現代のジャンヌ=ダルクのようだった。


 だからこそ激震が奔った。

 それはある日のことだった。

 校内の地下にある闘技場アリーナにて。

 対戦者を打ち倒した彼女がこう叫んだのだ。


『この対戦を最後に私は《魂結びの儀ソウルスナッチ・マッチ》を引退する!』


 炎の剣を掲げて、刀歌は続ける。


『理由は明白だ! もう私には戦う資格がないからだ! 私は――』


 一拍おいて、


『生涯の主君たる人と出逢った! 剣と魂をあの人に捧げたんだ!』


 ザワザワと生徒たちが騒めいた。


『絆の証として彼との《魂結びソウルスナッチ》を望んだのだ! 私は隷者ドナーとなった! 私を裏切り者だと罵ってくれてもいい! だけど、それでも私はッ!』


 刀歌は恥じることなく宣言した。


『あの人を愛している! あの人と共に生きるために《魂結びソウルスナッチ》を結んだのだ!』


 彼女の声は闘技場アリーナに広がった。

 それに対し、ブーイングはあった。けれど、それ以上に拍手が起こった。

 小さな拍手から徐々に盛大なモノへと……。


 ――サムライたる少女が運命の主君と出逢い、剣と忠義を捧げた。


 多くの生徒が、そんな印象を抱いたのである。

 それには強い説得力もあった。

 賛否の多い《魂結びソウルスナッチ》だが、そこには愛する人との絆という側面もあったからだ。

 ある意味、刀歌は《魂結びソウルスナッチ》の正しい在り方を自ら示したのである。


 刀歌は剣を納めて、静かに一礼した。

 拍手は鳴りやまない。

 ただ、同じ立場であるエルナとかなただけは、この大観衆の前であまりにも堂々と愛の宣言をする参妃に顔を真っ赤にしていたが。

 それからも刀歌は《魂結びソウルスナッチ》に悩む生徒たちの相談に乗っていたりする。

 

 閑話休題。


 刀歌は廊下を進んでいた。

 時刻は放課後。まだ校内にいるが今日はこのまま下校する予定だった。

 エルナやかなたの姿もない。

 今日は一人だった。

 何故ならこれから用事があるからだ。

 正直、そのメールを受け取った時は少し驚いた。

 会いたい。

 そんな内容だったからだ。


(半年……いや八ヶ月ぶりぐらいか)


 歩きながら記憶を振り返る刀歌。

 仲が悪い訳ではない。むしろ連絡はよく取り合っている。

 ただ、相手に都合があって中々会う機会がないのだ。

 ややあって玄関口に到着し、靴を履き替えるとそのまま校門に向かう。

 下校時間なので生徒の姿も多い。送迎車もだ。

 引導師の学校では、安全のため、登下校に送迎車を用意する家も多い。

 ちなみに刀歌……というより、まだ学生の妃たちは全員が徒歩の帰宅を好む。

 送迎を少し面倒だと考えているためだ。《久遠平原クオンヘイム》のメンバーには不満もあるのだが、護衛に関しては、各専属従霊に任されているとも言える。


 ともあれ、刀歌は目的の車を探した。

 すると、一時停車していた一際長いリムジンが進み出し、刀歌の横で止まった。

 刀歌がリムジンに顔を向けると、窓ガラスが開いた。

 そこには久しぶりに見る『幼馴染』の顔があった。

 互いに視線が重なる。


「こうして会うのも久しぶりだな」


 刀歌はふっと笑った。

 すると、相手も、


「うん。久しいね」


 ニカっと笑って応える。

 そして、


「じゃあ刀歌ねえ


 彼女・・は告げた。


「積もる話もあるし、車の中へどうぞ」


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