第343話 お妃バトルロイヤル2④
――一方。
エルナたちはエルナたちで、桜華たちの話を聞いていた。
少し距離は離れているが、魂力で身体強化すればこれぐらい造作もない。
桜華たちの話の内容が気になって聞き耳を立てていたのだ。
「「「……………」」」
エルナたちは沈黙していた。
全員がかなた並みに無表情だった。
そして、
「……なるほど」
エルナが口を開いた。
「……分かったわね。私たちと芽衣さんたちの違い」
「ああ」刀歌が頷く。「明々白々だな」
なんてことはない。
それはあまりにも明確な壁だった。
「結局のところ、彼女たちと立っている
かなたが無表情のまま言う。
「私たちではまだあんな赤裸々な会話はできません。なにせ未経験ですから」
かなたの指摘に隣に立つ月子が、無言のまま両頬を押さえた。
彼女の顔は真っ赤だった。
「納得いかなぁーいッ!」
その時、燦が叫んだ!
「あいつら伍、陸、漆じゃんっ! なんで後半組があたしらより先なのよ!」
「いや、流石に燦と月子ちゃんはそういったことは当分後でしょう」
と、エルナがツッコむ。
月子が
「と、とにかくよ!」
燦も少し顔を赤くしていたが、さらに叫ぶ。
「やっぱりあいつらには格の違いを見せつけないと!」
「いや待て、燦」
刀歌が腕を組んで呆れたように告げる。
「こう言ってはなんだが、芽衣はともかく、桜華師と六炉は確実に私たちより強いぞ。むしろ格の違いを見せつけられるのは私たちの方だと思うが」
「それに『殴り合う』から『格の違いを見せつける』に目的が変わっていますね」
と、かなたも冷静にツッコむ。
「うっさい! とにかくよ!」
燦は身を乗り出して叫んだ!
「このままじゃあ黙っていられないでしょう! あいつらをぶちのめすの! 大丈夫よ! あたしには新しい凄い必殺技があるんだから!」
「え? そうなの? 燦ちゃん」
初めて聞く話に、月子がキョトンとした。
「うん! そうよ!」と燦は親指を立てて答えた。
「大丈夫! あたしがいれば絶対に勝てるから! だからチーム戦しよっ!」
そう告げるなり、エルナたちが止める間もなく、燦は桜華たちの方へと駆け出した。
そして、
「おばーどもッ!」
とんでもない台詞を、桜華たちに対して言い放った。
エルナたちはギョッとし、桜華たちは眉をひそめて燦へと視線を向けた。
三人は、まじまじと小さな少女を見つめた。
「ちょっと先におじさんとエッチなことをしたからって調子に乗らないでよ! あたしだってすぐなんだから! チューとかもして、いっぱい愛されるんだから! よく知らないけどタプタプ? それもしてもらうから!」
と、胸を張ってそんなことを宣言する燦。
「ちょっと、あのね、燦ちゃん……」芽衣が額に指先を当てて非常に困った顔を見せた。「どこでそんなロクでもない言葉を仕入れてきたのかは知らないけど、燦ちゃんの歳でそんな台詞は言っちゃダメだよ。シィくんのためにも。マジで」
「うん。ムロもそう思う」
しゃがんだまま六炉も頷く。
一方、桜華は無言で燦を見ていたが、おもむろにエルナの方へと視線を向けた。
「……エルナ」
深々と溜息をついて、
「……こいつは普段からこんなに
「あ。うん。だいたい本能と勢いで生きてる子ですから」
反射的にエルナがそう返答する。
「誰がアホよ!」
燦が憤慨して叫んだ。
「とにかく調子に乗るな! おばーども! まずは誰が最強なのかはっきりさせてやるわ!」
そう告げて、桜華を指差した。
「チーム戦よ! おばーども三人とあたしたちの!」
そう告げられて、年長者三人は互いの顔を見合わせた。
「桜華さんとムロちゃんが同じチームなん?」芽衣が燦に問う。「せめて、その二人は別々にしないといけないんじゃ?」
桜華と六炉は妃たちの中の二強だ。
仮に芽衣が燦のチームに入ってもバランスは取れていない気がする。
「おばーども全員を倒さないと意味がないの!」
しかし、燦は聞く耳を持たない。
「だって、あたしが最強っておじさんに知ってもらいたいもん!」
「……本当に子供だな」
桜華は額に手を当てて小さく嘆息した。
「すみません……」
すると、エルナが前に出てきて、燦の頭を両手で抱え込んだ。
そして疲れ切った顔で、
「この子ったら言い出したら聞かなくて……」
「むぎゅう! 離せええッ! エルナ!」
エルナの腕と豊かな双丘で頭を抑え込まれた燦がジタバタと動く。と、
「……ですが、燦さんの提案も面白いかも知れません」
珍しくかなたが燦に賛同した。
全員が、かなたに注目する。
そんな中、かなたは桜華の方を見据えて、
「私も新しい技を試してみたいと思っていましたから」
「……ほう」
桜華が腕を組み、興味深そうに双眸を細めた。
「新しい技か。どのような技だ?」
「それは、これからお見せすればよいことです」
桜華の問いかけに、かなたは素っ気なく答える。
「……えっと、本当にやるのか?」
一方、師に全く勝てるイメージが持てない刀歌が自信なさげに問う。
「芽衣の言う通り、桜華師と六炉が同じチームでは、戦力差が大きいと思うのだが?」
「は、はい。そうですよね」
月子も、コクコクと頷いていた。
月子はまだ桜華の実力は知らないが、六炉の方はよく知っていた。
その六炉よりも強いらしい漆妃が同じチームではあまりにバランスが悪い。
「チーム分けはもう少し調整しても……」
と、月子が提案しようとした時、
「んん~っ! じゃあ!」
スポンッ、と。
エルナの腕から抜け出して燦が言う。
「おばーたちは
「……自分が最強とか言っときながら、堂々と
燦を取り逃がしたエルナが呆れたように呟く。
すると、
「まあ、これも訓練か。別に構わんか……」
桜華がそう呟いた。
それから、視線を伍妃と陸妃に向けて、
「六炉。芽衣。お前たちも構わないか?」
「ん。OK」「ウチも。桜華さんにしごかれるよりは……」
まだ模擬戦の方が楽そうだったので六炉も芽衣も反対しない。
桜華は苦笑を浮かべつつ、燦に視線を向けた。
「いいだろう。お前の我儘に付き合ってやろう。だが、一つだけ言っておくぞ」
「……何よ」
「月子の方はいざ知らず、自分はお前の方をあいつの妃とは認めていない。あの女に似た面影はこの際置いておくとしてもだ」
桜華は、虚空からヒヒイロカネの宝剣を取り出した。
「どうにも、お前は態度も言論も子供すぎる。まあ、本当に子供ではあるから仕方がないとしても、いつまでも今のままではあいつの
一拍おいて、
「いい機会だ。怪我をさせない程度に指導してやる」
「むむむ。上から目線ね!」
対する燦は少しご立腹だった。
「漆番目のくせに! 指導なんて出来るもんならしてみなさいよ!」
バチバチッと髪を帯電させて、そう言い返す。
桜華は苦笑じみた笑みを見せた。
「……やれやれね」
そんな中で、壱妃たるエルナは深々と嘆息する。
「まあ、いいわ。じゃあチーム戦にしましょう。私とかなたと刀歌。月子ちゃんと燦の五人で一チーム。桜華さんと六炉さん、芽衣さんの三人で一チーム」
エルナはすっと右手を上げた。
そうして、
「それじゃあ、この手を降ろしたら――スタートで!」
彼女は手を振り下ろした。
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