第二章 お妃バトルロイヤル2
第340話 お妃バトルロイヤル2①
――
それは数字を持つ妃たち。ホマレが何となく名付けた呼び名なのだが、いつの間にか近衛隊や
西の魔都の覇者。
それが彼女たちなのである。
(ダーリンって大物だったなあ)
と、ホマレは思う。
現時点で『壱』から『漆』まで数えられる妃たちは今、少し遅れている一名を除いて全員この訓練場に集まっていた。
意識してではないと思うが、三つのグループに分かれているように見える。
ビーズクッションに騎乗しながら、その一人一人をホマレは改めて分析する。
(まずは一つ目のグループ)
中央辺りに立つ壱妃。エルナ=フォスターからだ。
右房のみ長いショートボブの銀髪に、宝石のように輝く紫色の瞳。
その容姿通り彼女は日本人ではない。ホマレと同じく北欧系の血を引く少女だった。
妃たちの
ただし、
(……ぐぬぬ)
そのプロポーションは実に年齢離れしていた。その上、スタイルがよく分かる学校指定とかいうラバー製の黒いボデースーツを纏っている。
女の子が大好きなホマレとしては眼福でもあるが、やはり格差は感じてしまう。
(エルちゃんの性格はしっかりもの。何だかんだでダーリンに信頼されてるし、リーダーシップもある子。見る分には眼福だけど、やっぱりエルちゃんはホマレの大きな壁だなあ)
少し嘆息しつつ、視線を次の妃に移す。
弐妃・杜ノ宮かなたである。
肩にかからない程度の黒い髪に、無表情な美麗な顔立ち。スタイルにおいてはエルナ相手でもそうは劣らない美しい少女だ。
エルナと同級生であるらしい彼女は、同じく学校指定の
(かなちゃんはエルちゃんのサポート役。性格はクールっ子。けど、淡々としているようでこの子が一番ダーリンに可愛がってもらっているような気がする。たぶん
女の子に関するホマレの眼力は凄かった。
かなたが表面には決して出さない部分も見抜いていた。
(そんで次は刀歌ちゃん。桜華ちゃんのお弟子ちゃん)
ホマレは、かなたの隣に立つ人物に目を向けた。
参妃・御影刀歌。凛々しい双眸に、長い黒髪をポニーテールにした少女だ。
エルナにも匹敵するスタイルの上には、やはり学校指定の
(やっぱり桜華ちゃんによく似てるなあ。本当に姉妹みたいだ)
二人の年齢差は凄まじいのだが、ホマレでなくともそう思うだろう。
(グへへ、けど、この子もホマレの好みだしね。仲良くなれないかなあ。グへへ)
と、じゅるりと口元から音を鳴らすホマレ。
隣に立つ葵が「……ホマレさん?」と怪訝な顔を彼女に向けていた。
(ともあれ刀歌ちゃんは見た目通りサムライっ子だね。ただ、生粋の戦士タイプの桜華ちゃんとは違って、ちょっとワンコっぽいかな。この子も甘え上手と見た!)
以上、ここまでがJKグループだ。
(さて。次は)
涎をゴシゴシと拭いて、ホマレは気分を改める。
ここからは派閥という訳ではないが、少し世代が変わる。
肆妃たちである。
まずは肆妃『月姫』・蓬莱月子。
ふわりとした淡い金髪に、アイスブルーの瞳。温和な微笑みが印象的な彼女は、欧米の血を引く日本人とのハーフだ。その影響も著しいのか、中等部一年でありながら、スタイルはエルナたちに近いものがある。今は上下一体のスパッツの上に白いTシャツを着ていた。ダンスレッスン用のような私服の衣装だ。
「YES!」
唐突にホマレは叫んだ。葵はもちろん、茜の方もビクっと肩を震わせた。
(月子ちゃんは性格も見た目も、もう完全な天使っ子だね! 凄くいい子だよ! 無茶くちゃ甘やかしたい!)
と、素直に思う。
ただこの天使っ子も可愛いだけではない。侮れない子なのだ。
恐らく、かなた、刀歌に並ぶ、妃の中の三大甘え上手だとホマレは分析している。
(月子ちゃんも幼くても女だもんね。けど、幼いと言えば……)
ホマレは視線を月子の隣に向けた。
そこにいるのは月子の親友。支流のようにツインテールを作り、毛先に行くほどオレンジ色になる赤い髪の少女だ。
月子と同じ衣装を纏った子で、年齢も同じく十二歳。
ただし、圧倒的な美麗な顔つきはともかく、スタイルは年齢通りだ。
勝気そうなあの子は、今は月子と楽しそうに喋っている。
肆妃『星姫』・火緋神燦である。
(燦ちゃんか……)
ホマレは、「ムムム」と呻いた。
燦も極上レベルの美少女だ。女の子が大好きなホマレとしては嫌う理由はない。
しかし、燦はホマレにとって厄介だった。
(おのれ真正ロリめ!)
なにせ、自分とキャラが被っているのである。
(しかも燦ちゃんって小悪魔タイプだし! 天然でメスガキ属性持ってるし!)
あの子は、きっと無茶くちゃダーリンに迷惑をかけているのだろう。
そしていつの日かダーリンに
(ぬうう。まさに定番だよ。けど、しょせん真正は真正。モラルが凄く高いダーリンのことも考えればそれはまだまだ先のこと。合法たるホマレは違うのだよ)
と、自分の優位性に慎ましい胸を張る。
――くしゅん。
燦がくしゃみをした。
この二人がJCグループだった。
(さて。残る
ホマレは最後のグループに視線を向けた。
本当は残り三人だが、一人は遅刻しているようでまだ不在だ。なので残りは二人だ。
(……むむむ)
一人は特に脅威だった。
ホマレと属性が真逆の妃だからだ。
年の頃は十九歳ほど。肩辺りまで伸ばした白銀の
今はしゃがんで隠れているが、そのプロポーションは圧倒的だ。おっぱいなど妃たちの中でも最も大きい。メロンかとツッコみたくなる。ホマレと全く逆の属性だった。
陸妃・天堂院六炉である。
(ムロちゃん……燦ちゃんとこの火緋神家と並ぶ天堂院家の次女かあ……)
まさに名家中の名家の娘だった。
(凄いね。ダーリンは。あの二家からそれぞれ直系のお嫁さんを取って来るなんて)
普通はとても出来ない。
(ムロちゃんはおっとりした天然タイプだね。あのメロンは是非ともホマレも堪能してみたいよ。けど、ムロちゃんに限らず
と、少し気落ちするが、ホマレは自分の頬を叩いて自身を奮い立たせた。
不利なのは事実かも知れないが、今のホマレには野望があるのだ。
(――そう!)
ホマレは最後の妃に目をやった。
しゃがむ六炉の隣で両腕を組んで佇んでいる人物である。
年の頃は十八ほど。肩までぐらいの黒髪の凛々しく綺麗な女性だった。
身に纏うのは、ハイネックの黒い長袖Tシャツに、レディースの白いデニムパンツ。胸元には水晶の首飾りをかけていた。この家で暮らすようになってから彼女が好んで着る私服である。ホマレは土下座してまで「私服にはどうか再び
とは言え、いかなる服を着ても、彼女の魅惑のスタイルは隠せない。
ホマレの最推し。
漆妃・久遠桜華である。
(桜華ちゃあああああん! 今日も綺麗だよおおォ!)
と、内心で声援を贈る。
ホマレは、彼女のためだけにこの場にいたと言っても過言ではない。
個人的な思惑も多々あったが、彼女のために尽くしていたのだ。
ただ、色々とありすぎて、今や目的が大きく変わってしまったが。
(けど、むしろこの変更は好都合だよ!)
ホマレは新たな野望を抱く。
(グフフ。ホマレは絶対にランクアップするよ! そして桜華ちゃんと一緒に熱い夜を! 桜華ちゃん! 一緒にダーリンに愛されようね!)
ホマレは、キラキラと瞳を輝かせてそんなことを思う。
同時に、じゅるりと涎も垂らしていた。
葵と茜が不気味がるように覗き込んでいることにも気付かない。
いずれにせよ、これでホマレの分析は終わりだ。
そうして、
「………?」
桜華が眉をひそめる。
「? どうかしたの? 桜華?」
あごを上げてそう尋ねる六炉に、
「……いや。何故か寒気が?」
ぶるっと。
身震いして小首を傾げる桜華だった。
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