第309話 迫る決戦➄
同時刻。
――ヒュンッ!
赤く装飾された金属棍が空を切り裂く!
場所は廃ホテルの屋上だ。
赤い棍を振るうのは
鍛え上げられた肉体は、上半身を剥き出しにしている。
どれほどの時間を鍛錬に使っているのか、玉のような汗を筋肉に伝わらせている。
彼は、二メートルはある棍を自在に操っていた。
そして――。
――ダンッ!
強くコンクリート床を踏み抜き、刺突を繰り出した!
汗を飛び散らせて、
「……なるほどな」
グッ、と棍を握る手に力を込める。
すると、
「よう。
後ろから声を掛けられる。
やたらとご機嫌な
「おう。お前らか」
「昨日はよく休めたか? つうか、随分と眠そうだな。
「……こいつに叩き起こされたのよ」
欠伸をしつつ、
「こいつだって明け方近くまで起きてたはずなのに。しかも、そこからまた一戦し始めるし、何なのよ、こいつは……」
ゴツン、と肘を
「まあ、そこは念入りにってやつだな」
言って、
タンクトップで腹部も剥き出しのため、素肌が
「…………」
「ねえ、
「おう? 何だ?」
真紅の棍で肩を叩きつつ、
「あんたって夜の方はどんな感じなの?」
「……は?」
流石に
「いや、なに聞いてんだ。お前?」
「……忌まわしいけど、私ってこいつしか男を知らないのよ。だから」
そこで
「
「ああ」
「昨夜はまあ、ちょいと無茶させちまったしな」
「……それってやっぱ
「……いや、それは俺の趣味じゃねえって」
そう告げて、
しかし、ガキの頃からの悪友は太々しく笑うだけだ。
「そういや
一拍おいて、
「悪いと思うから少しは答えるが、あいつは、いつも自分はそこそこって言う癖があんだよ。昨夜はそれをさせなかった」
そこで、ボリボリと頭を掻いて、
「あいつから素直に求められるように、まあ、そんな感じで進めていった訳だ。それでやっと素直になってくれたんだが、それが想像以上に愛らしくてな……これ以上は勘弁しろよ」
言って、話を終わらせる
そして自分の腹部をずっと擦り続ける
「……なんで私の男はこれなのよ……」
深々と嘆息した。
「まあ、いいじゃねえか。それよりよ」
そんなやり取りの後、
正確に言えば、その手に掴む真紅の棍を、だ。
「そいつには慣れたか?」
「おう」
「色々と出来ることは確認した。流石は伝承級の鉱物だな」
言って、ピタリと棍を構える。
この真紅の棍は《
名付けるなら『
「頼もしい相棒になってくれそうだぜ」
「そうか……」
「今夜、行くんだな」
「おう」
紅如意を肩に担ぎ直して
「お前らのおかげで準備は整った。なら早い方がいいだろ」
「そうか……」
「まあ、死ぬんじゃねえぞ」
「ああ。分かっているさ」
「
「おう。了解だ」
そうして
屋上に残ったのは、
ややあって、
「……勝てるの?」
「《
「……ああ」
「知った時は俺もまさかとは思ったが、同時に納得もしたぜ」
あの男の恐ろしさは骨身に沁みている。
怪物女の男は、やはり怪物だったということだ。
「まともにやったら今の
ふっと笑う。
「あっさり逃げて仕切り直す。それも
信頼を以て、そう告げる。
「さて。俺らも準備だ。今夜、月子を拉致んぞ」
「…………は?」
唐突な
「え? どういうこと? だって今夜、
「おう、そうさ」
「ってことは、そん時だけは、あの化け物野郎が月子の傍にはいねえってことだろ? まさに狙い目じゃねえか」
「何それ、最悪」
「一人で決戦に向かう親友を囮にするってこと?」
「はン。それは
「その程度で崩れるような薄っぺらい関係じゃあねえんだよ。俺らはよ」
そこで肩を竦めて、
「それにな、
「……よく言うわね」
「結局、あんたの欲望じゃない」
「当然だろ。俺はそもそも下衆なんだよ」
グッと強く
「暗躍も小細工も上等よ。卑怯な手こそが下衆の真骨頂ってもんだろ」
そう言って、
太陽はまだ高い。
だがしかし、夜は確実にやってくる。
決戦の時は近かった――。
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