第302話 ジョーカーは気まぐれに③

 桜華からのメールの要点はこんな感じだった。

 まず刀歌と会いたい。

 同行者は二名まで。

 ただし、真刃は同行者の対象外とする。

 その上で面会の場所と時間を指定してきた。

 時刻は十四時。場所は駅近くのファミリーレストランだった。


 もちろん、刀歌たちはこの件を真刃に相談した。

 執務室にて、真刃は少し渋面を浮かべた。


「……そろそろ連絡があるとは思っていたが、あやつは……」


 と、小さく呟いてから、


「何かしらの意図があるのだろうな。ここはあえて乗ってみよう。刀歌。すまぬが、あやつとの対談を頼めるか?」


「う、うん。それは構わないが……」


 刀歌はコクコク頷いた。

 真刃は刀歌に付き添ってこの場にいるエルナとかなたに言う。


「同行者はエルナとかなたに任せたい。あやつは刀歌の師だ。刀歌一人では緊張もしよう。二人にも出来るだけあやつのことを探って欲しいと思っている」


 そう告げた。エルナたちも頷いた。


「……若」


 すると、真刃の後ろに控えていた獅童が進言した。


「我らが護衛につきましょうか?」


「……そうだな。いや」


 真刃は少し思案してから告げる。


「護衛はそれぞれの専属従霊に任せよう。文面からして、あやつは刀歌たちがオレの身内であることは知ったようだ。ならば荒事にもなるまい」


「承知いたしました」


 獅童はそう言って下がった。


「刀歌」


 真刃は刀歌を見やる。


「あやつのことを頼む」


「う、うん。分かった」


 刀歌は緊張した様子で答えた。

 そうして今に至るのである。

 時刻は十四時より十五分前。

 約束のファミレスにて、刀歌はガチガチに緊張していた。

 顔色は青ざめている。


「刀歌? 大丈夫?」


「だ、大丈夫だ!」


 エルナの問いかけに、瞳をグルグルと回して答える刀歌。


「少し落ち着きましょう」


 かなたも、相変わらずの冷静な眼差しで刀歌にそう告げる。

 三人は、テーブル席の片方のソファーに座っていた。

 対面を空けているのは、当然、桜華の来訪を待っているからだ。

 一応、アイスコーヒーを頼んで待っているのだが、一分ごとに顔色が悪くなる刀歌は、すでに飲み干していた。その後も、エルナとかなたが緊張を解すために何度か声を掛けたのだが、あまり効果はないようだ。


 そうして――。


「待たせたな。刀歌」


 遂に声を掛けられた。

 刀歌は、ガバッと顔を上げた。

 そこには師がいた。

 ただ、先日見た中華服チャイナドレスではない。

 夜空を思わせるような暗青色ダークブルーのハーフコートと、上下一体型のレギンス姿だ。

 その佇まいは戦士のごとく静謐であり、同時に女性としての艶やかさがあった。

 ――久遠桜華である。


「ああ。そうか」


 桜華は刀歌以外の少女にも目をやった。


「同行者はお前たちか。エルナ=フォスター。杜ノ宮かなた」


 名前を呼ばれて、エルナたちは頭を軽く下げた。

 桜華は「では失礼するぞ」と言って、エルナたちの対面のソファーに腰を降ろした。


「『私』の方は二人だ」


 そう言って、桜華は右耳の装飾品デバイスに触れた。


「こいつの名はホマレという」


『初めまして! ホマレだよ! 装飾品デバイス越しで失礼するね!』


 と、ホマレが言う。エルナたちは少し驚いて目を瞠った。


「さて」


 一方で、桜華は微笑んだ。


「では、少し話でもしようか」



       ◆



 その頃。

 金髪碧眼の青年――《死門デモンゲート》ジェイは街中を歩いていた。

 彼の姿は完全に人だ。

 まさか、その中身が化け物であると思う者はいない。

 ましてや呑気に欠伸をしているのなら尚更だ。


「流石に昨日ははっちゃけすぎたかな?」


 外れではあったが、随分と愉しめたのも事実だ。


「まあ、この勢いのまま連戦と行こうかね」


 彼はスマホを取り出した。

 指先を動かして情報を探す。主に画像からだ。

 引導師ボーダーの容姿に外れはないが、やはり自分好みの女がいい。


「お。こいつは……」


 双眸を細める。

 昨夜の相手と似た少女を見つけた。

 年齢は少し下。髪型は長いポニーテールだ。

 通う学校は星那クレストフォルス校。瑠璃城学園にも劣らない名門である。

 性格は質実剛健。公然と《魂結び》を否定している娘らしい。


「おお~、いいねえ」


 ジェイはニタリと笑った。


「今度のサムライっ娘は純度が高そうだ。えっと名前は――」


 と、調べようとした時。


「………げ」


 通話が来た。

 相手を見やると、世にも恐ろしい姉御からの通話だった。


「……やべ。もしかしてもうバレてる?」


 少し顔を強張らせた。

 一瞬無視しようかと思ったが、流石にそれは怖い。

 恐る恐る通話をすると、早速怒られた。


 やはりバレていた。

 流石はあの叔父貴の嫁さんだ。

 自分の行動など、最初からすべてお見通しのようだ。


「すみません。すみません。ごめんなさい」


 ジェイはひたすら謝った。

 しかし、姉御は一向に許してくれない。


「え? 駅前っすか? ファミレス? 近いっすけど、ええ~、今からっすか?」


 遂には呼び出しをくらってしまった。

 ジェイは渋面を浮かべるが、


「……分かったっす。すぐに行きます」


 これ以上、姉御を怒らせてはまずい。

 仕方がなく承諾した。











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