第210話 薄幸姫の願い②
某日。都内某所。
久遠真刃が呼び出されたのは、いわゆる料亭であった。
築五十年ほどか。半透明の猿忌を従えて、趣のある門戸をくぐる。
次いで、女将が出向いて挨拶をし、部屋へと案内されることになった。
(大層な場所だな)
紳士服姿の真刃が思う。
このために、わざわざ正装してきたのだ。
庭園の見える長い廊下が続く。
そうして、
「……お客さまをご案内いたしました」
おもむろに女将が両膝をつき、襖の向こうへと声を掛けた。
それから、襖を開ける。
広い和室。そこには一人の少女がいた。
年齢は十八ほどか。
部屋の片隅に座る和装を纏う長い黒髪の少女だ。
――天堂院七奈である。
「ようこそ、お出で下さいました」
彼女は、真刃に三つ指をついて出迎えた。
真刃は部屋に入る。室内には大きな木製の机があり、席が二つ敷かれている。
「どうぞ上座へ」
七奈がそう告げる。
客人として呼ばれた以上、拒否をしにくい。
真刃は上座に座った。
次いで、七奈が「失礼します」と告げてもう一つの席に座った。
「では、お料理をお持ちいたします」
そう告げて、女将は襖を閉じた。
和室には真刃と七奈。
そして従霊としては、真刃の傍らに浮く猿忌。
姿こそ見せてはいないが、金羊と刃鳥が残された。
金羊が宿るスマホが沈黙している。ここに盗聴器などがない証明だ。
「さて」
早速、真刃が切り出した。
「用件を聞こうか。天堂院七奈」
「はい。久遠さま」
七奈が頷く。
「まずは此度、私のお呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」
「構わん」
真刃は言う。
「
「……父にですか?」
七奈は、眉根を寄せた。
「ああ」真刃は頷く。
「お前の父に尋ねたいことが出来た。面通しを頼みたい」
「……父は」
七奈は眉をひそめたまま告げる。
「多忙な方です。私程度が声を掛けても聞いては下さらないでしょう」
「『
少々複雑な心境でそう尋ねる。
すると、七奈はかぶりを振った。
「私と夫は確信しておりますが、あなたが『久遠真刃』の血族である証明が出来ません。父の興味を引くかもしれませんが、流石に面通しが叶うかは……」
「……そうか」
あの男は、かつての時代から用心深い。
名前だけでは面通しが難しいというのも納得がいく。
流石に自分の写真でも渡せば面通しぐらいは出来るかもしれないが、それは情報の開示をしすぎだった。間違いなく天堂院家は事前調査に乗り出すことだろう。こちらから斬り込む前にこちらの手の内を探られる危険がある。
ましてや、いまフォスター邸には、火緋神家の直系である燦までいるのだ。
天堂院家ほどの大家に徹底して探られるのは愚策だった。
(仕方がない。他の手を考えるか)
そう思案していると、
「ですが、久遠さまが父への面通しを望まれるのならば、此度の私の提案は、思いの外、好都合なのかも知れません」
おもむろに七奈がそう言った。
「……なに?」
真刃は眉根を寄せた。
「それは、どういうことだ?」
「私の提案が成功すれば、恐らく父への面通しは叶うはずです。
真刃、猿忌も怪訝な表情を見せた。
「……彼女だと? 誰のことだ?」
「私の異母姉です」
真刃の問いに七奈は答える。
「……現在、天堂院家を出奔中の私の一つ上の異母姉。
七奈は半歩ほど下がって真刃に、三つ指をついた。
「久遠さまには、どうか彼女を
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本日はもう一話投稿しています!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます