第137話 夜明けは遠く➄
他サイトでありますが、『骸鬼王と、幸福の花嫁たち』が総合3000ptを突破しました!
これも皆さまの応援のおかげです!
感謝を込めて、本日、もう一本更新します!
これからも本作をよろしくお願いいたします!
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場所は移って、洋館。
トクトクと、グラスに
それは、数秒ほど続き、
「……これは参ったね」
道化紳士は、
グラスに口を付けて、赤い液体を半分ほど呑み干す。
エリーゼの祖国の酒。
この国では入手しにくい中々の逸品なのだが、今は苦みを感じた。
「まさか、彼まで降板してしまうとは」
道化紳士の脳裏には、この街での死闘がすべて映し出されていた。
これまでの三夜で、彼には、特にお気に入りの人間が数人いた。
例えば、豪胆な戦士である金堂岳士。
例えば、抜群の指導力を見せる黒田信二。
そして彼――武宮志信。
彼の槍さばきには、道化紳士も一目置いていた。
彼の活躍なくして、今宵まであの数は生き残れなかったことだろう。
少なくとも、この三人は、第七夜まで生き延びると考えていた。
だが、
「……これは考えている以上に悪手だったのか?」
苦笑いを浮かべる。
まさか、第四夜目にして、武宮志信が死んでしまうとは。
それも、屍鬼ごときを相手にしてだ。
「時に、数は個を圧倒するのか」
グラスの中の
彼自身、弱敵がどれほどいようとも苦戦したことがないので失念していた。
一体の強者を倒すよりも、百の弱者に襲われる方が脅威ということもあり得たのだ。
「
額に指先を置き、道化紳士はかぶりを振った。
「こんな中盤の
彼は、今回の七夜の参加者全員の名と顔を覚えていた。
エリーゼは帳簿がなければ分からないのだが、道化紳士は、彼らの名前、その伴侶の名までも把握していた。
武宮志信は、お気に入りだけあって本当に惜しいことをした。
「大いに猛省すべき点だな。今後は、屍鬼は出演させないことにしよう。だが……」
道化紳士は、グラスを机の上に置き、あごに手をやった。
「気になるのは、武宮君の元に駆けつけた蒼き狼だな。あれは式神か」
屍鬼どもを一掃した巨狼。
――いや、あの狼だけではない。
道化紳士は、双眸を閉じた。
「……十八、十九、二十か」
合計で二十体。巨狼を筆頭に、様々な姿をした式神たちが、屍鬼どもを薙ぎ払って、
「流石に、あれらは彼女の式神ではないだろうな」
エリーゼが迎えにいった女性引導師。
彼女は炎の刃を携えていた。
あれが、彼女の系譜術なのだろう。
式神たちは、別の引導師の手によるものだ。
しかし、
「……これはどういうことか」
道化紳士は、あごをゆっくり擦った。
「あの式神たち。どれも生半可な
そうなってくると疑問が出てくる。
あの数である。
「名家の当主であっても、あの
流石に馬鹿げた話だ。
それなりに名を知れた当主たちが、揃って慰安旅行でもしていたというのか?
「フハハ。流石にそれはないか」
道化紳士は、苦笑を浮かべた。
「考えても仕方がないな。ふむ。そうだな。君なら何か知っているのかね?」
言って、自分の後ろに顔を向けた。
『はン。てめえに教える必要があんのかヨ』
すると、そんな声が返ってきた。
意外にも若い女性の声だ。
それは、部屋の片隅に浮かぶ鬼火から発せられていた。
『てめえを見つけた時点で、オレの仕事は終わりだ。後は親分の出番だ』
「……ほう」
道化紳士は、興味深く瞳を細めた。
「それは君の主かね?」
『おうヨ』
鬼火は答える。
『オレらの主。正真正銘、史上最強の引導師だ』
と、告げた、その瞬間だった。
――ズズンッ!
突如、天井が崩れ落ちる!
猛烈な風と、土煙が室内を覆った。
道化紳士は、そんな状況でも動じず、ソファでくつろいでいた。
そうして、
「……ほう」
双眸を細めた。
道化紳士の目の前。
そこには、一人の戦士が立っていた。
紅い紋様が輝く黒鉄の躰に、両肩と背面から噴き出して、
鋭い牙を固く結ぶ鬼の仮面をつけるその姿は、西洋の甲冑騎士を思わせるモノだった。
「これは驚いた。随分と吾輩好みの勇ましい姿ではないか」
未だ立つ様子もなく、道化紳士は言う。
『……
一方、鬼面の戦士も返した。
『状況からして、名付きであることは察していたが、よりにもよって、貴様が今回の黒幕だったとはな……』
「おや?」
道化紳士が、ソファの背もたれに両腕を掛けて問う。
「吾輩は君を知らないのだが、どこかで会ったかね?」
『……遭ったことはない。しかし、遭遇すれば死は免れない他の連中とは違い、貴様の目撃例は多数あるからな』
「ほほう。そうなのかね」
道化紳士は、肩を竦めた。
「それは知らなかった。確かに、吾輩には見どころがある者をつい見逃してしまう癖があるからな。容姿を伝えられていても仕方がないか」
『……お前は』
鬼面の戦士――久遠真刃は問う。
『何を企んでおる? この場には何を目的に現れた?』
しかし、その問いかけに道化紳士は答えない。
楽し気に天に伸びた髭先を指で弄っている。
数瞬の沈黙。
「はてさて。ここは、なんと答えるべきかな?」
そう言って、目尻を下げた。
真刃は静かに拳を固めた。
いつでも踏み込めるように重心を下げる。
『答える気がないのならば、それでも良い。このまま、貴様を屠るだけだ』
そうして、
『七体の、千年我霊の第陸番……』
一拍おいて、真刃は、その名を呼ぶのだった。
『――《
この国における、最悪の忌み名であるその一つを。
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