第一章 炎刃の剣士
第118話 炎刃の剣士①
第4部、先行投稿第2弾です!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
竹林の中。
少女は走る。必死に走る。
彼女の両足は、血と泥で滲んでいる。
素足なのだから当然だ。
いや、素足どころではない。
彼女はほぼ全裸だった。無残に切り裂かれた着物に袖を通しているだけの姿だ。
しかし、そんな姿にも拘らず、彼女は一心不乱に竹林を駆けていた。
――はァ、はァ、はァ。
呼吸は、今にも止まってしまいそうだった。
それでも、足だけは止まらない。
止めることなど出来ない。
たった一日。
たった一日前のことだった。
晴れた休日。女学生である彼女は、友人の少女と共に竹林の脇を通った。
そこは
彼女たちは、日中であっても薄暗い道へと入り込んだ。
そして、彼女たちは、化け物に攫われた。
連れていかれたのは竹林の奥。まるで黄泉の入り口のような洞穴だった。
そこで、彼女たちは、化け物に凌辱された。
まず犠牲になったのは、友人だった。
悲鳴を上げて、助けを求める友人。
しかし、彼女は、怯え切って動くことも出来なかった。
そうして、洞窟内に微かな嗚咽だけが木霊するようになった頃。
次は、彼女の番だった。
彼女もまた悲鳴を上げて助けを求めたが、その声は誰にも届かず――。
彼女たちは気を失おうが、体力が尽きようが、幾度となく凌辱された。懇願の悲鳴も意味もなく、容赦なく化け物に精を注がれた。
……それから、どれほどの時間が経っただろうか。
彼女たちは、虚ろな表情となって洞穴内に横たわっていた。
化け物は、彼女たちを犯し尽くして満足したのか、その場に横になって眠った。
この時、逃げていれば……と、今は思う。
そうすれば、あんな光景を見ずに済んだかもしれない。
けれど、彼女も、友人も、絶望感に打ちのめされて動けなかった。
それが、翌朝の悪夢を招いたのである。
彼女たちが目を覚ましたのは、化け物よりも少しだけ早かった。
岩肌が剥き出しの寝床。貞操を失ったこと。何より、文字通り、獣のごときだった情事は、彼女たちに尋常ではない疲労感をもたらしていた。
体が岩のように重い。
わずかに衣服を纏った彼女たちは、どうにか上半身だけ起こした。
化け物が起きたのは、その時だった。
のそりと巨体を動かして、上半身を起こす化け物。
化け物は欠伸を零すと、その場で胡坐を組んだ。それから、恐怖で動けない彼女たちに目をやり、友人の肩を両腕で掴んで、自分の膝の上に抱え込んだ。
……昨日の続きだ。
二人は青ざめて思った。
恐らく、この化け物は自分たちが孕むまであれを繰り返すつもりで――。
そう思った時だった。
――ゴキンッ!
と、唐突に鈍い音がした。
彼女は唖然とした。
唐突に。
化け物が、友人の首を真横にへし折ったのである。
そして、おもむろに巨大な口で友人の首筋に噛みついた。
ビクン、ビクンッと。
友人の足や腕が激しく震え出す。
抵抗ではない。ただの肉体の反応だ。
友人は、すでに絶命している。
そんな友人を、あの化け物は――。
――ゴキュ、ゴキン。バキリッ、クチャ、グチャ……。
彼女は絶叫を上げた。
そして逃げ出した。
絶望も。疲労感も。体中の痛みも。
すべてを無視して駆け出した。
ここで逃げなければ、自分も喰われてしまう。
その恐怖が、彼女を突き動かしていた。
(街! 街まで行けば!)
この竹林は、街からそう遠くない。
街まで逃げきれば、きっと助かるはずだ。
何度も転ぶ。足はもう血塗れだ。地を踏むたびに激痛が走る。
それでも彼女は走り続けた。
そうして、ようやく竹林の間から遠くの街の光景が見えた。
彼女の瞳に、希望の光が灯った。
しかし、
――ズズンッ!
突如、
彼女の倍はある巨躯。剛毛に覆われた全身。異様なまでに長く筋肉質な首に、その上にある頭部には一本角を持つ。
――首長鬼。
そう呼ぶしかない
彼女を追ってきたのである。
あと少し、あと少しだったのに……。
彼女は、絶望で目を見開いた。
その上、首長鬼の手に持つものにも気付き、歯をカタカタと鳴らす。
それは友人の足だった。右足だけを左手に持っているのだ。
彼女は、全く動けなくなった。
すると、首長鬼は近づき、彼女を右腕で抱え上げた。
彼女が無抵抗だったこともあったが、思いの外、優しい手つきだ。
彼女が心神を喪失した顔で首長鬼を見上げると、鬼は、ベロリと長い舌で、彼女の横顔を舐めた。無表情の彼女は体を強く震わせるが、首長鬼が牙を突き立てる様子はない。
ズシン、ズシンと。
首長鬼は彼女を右腕に、左手で
彼女は、もう消えてしまいそうな意識で思った。
食事が済んだ。ゆえに次は情事。
自分は再び、この鬼の情事の相手をさせられるのだろう。
そしてその後は――。
つう、と。
絶望の涙が頬を伝った。
その時だった。
「いつもながら不快だな」
不意に。
竹林に声が響いた。
口調こそ男性だが、女性のようにも聞こえる澄んだ声だ。
彼女は、ハッとした。
首長鬼も、声の方へと振り向く。
薄暗い竹林の中、そこに居たのは……。
「何が生きている証だ。貴様らの所業は獣にも劣るぞ」
黒い軍服に黒い軍帽。そして漆黒の外套を纏った一人の青年だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます