第61話 対談②

 窓から、朝日が差し込んでくる。

 スゥ、スゥ、スゥ、と。

 三人の少女たちは、一つのベッドの上でそれぞれの格好で眠っていた。

 すると、


「………ん?」


 ――むくり、と。

 その内の一人、御影刀歌は、おもむろに上半身を起こした。

 ふわあっと大きく背伸びをする。

 大きな胸がたゆんっと揺れ、裾の短いジャージからへそが顔を出した。

 ごしごしと目を擦る。


「……? ここは……?」


 刀歌は、視線を下ろした。

 そこには、同じくベッドの上で眠るエルナとかなたの姿があった。

 そこで、ようやく思考と記憶がはっきりとしてくる。


「そ、そうか。私は、私たちは……」


 まるで、猫のように丸まって眠るエルナとかなたの姿を見やりつつ、刀歌は頬を両手で押さえて赤く染めた。

 ここは、昨夜まで真刃が使っていた部屋だった。

 昨夜、この部屋の前で刀歌は、ただただ硬直するだけで何もできなかった。

 しばらくすると、部屋が静かになった。

 十数秒の硬直。すると、おもむろに真刃が部屋から出て来たのだ。


『……刀歌? どうしたのだ?』


 真刃の問いかけに、刀歌は口をパクパクとさせた。

 何かを言わねばならないと思っていたら、反射的に撃ち抜かれた脇腹を押さえていた。


『お、お腹、痛い……』


 子供か!

 自分でも思った。

 しかし、真刃は顔色を変えた。


『まさか傷口が開いたのか!』


 そう言って、彼女を抱き上げるではないか。


(あわ、あわわわッ!)


 彼女は真刃の腕の中でわたわたと手を動かすが、真刃は構わず刀歌を室内に連れ込んだ。

 パタン、とドアが閉まる音が聞こえて、刀歌は硬直する。

 部屋には、電気が付けられていなかった。

 それが特に必要ないぐらいに、月明かりが明るかったからだ。

 恐らく、元々が月明かりを楽しむようなコンセプトの部屋なのだろう。


(――ッ!)


 その部屋で、刀歌は息を呑んだ。

 椅子の上に座って眠るエルナ。

 さらには、ベッドの上に仰向けで横になるかなたを見つけたからだ。

 特に、かなたの方を、刀歌は、目が皿になるぐらいに凝視した。

 気を失っているらしきかなたは、荒い呼吸を繰り返していた。

 右手を腹部に、足は内股。服は少し着崩れていて、露出した肌は汗で輝き、火照っている。艶やかな唇には、彼女の黒髪が糸のようにかかっていた。


(か、かなた……)


 月明かりの中で眠る同い年の少女の姿には、どこか妖艶さがあった。

 衣服こそ着ているが、これは間違いなく夜戦の後である。

 よく見れば、エルナの方も同じように消耗した様子だ。衣服も少し乱れている。


(うわっ! うわっ!)


 刀歌は、再び口をパクパクとさせた。

 と、そうこうして内に、真刃にベッドの上に寝かされた。

 刀歌は胸元に両手を置いた状態で、石像のように硬直した。


『……刀歌。痛いところを言え』


 真刃が神妙な声でそう告げてくるが、刀歌の耳には届かない。

 エルナとかなたの呼吸音が聞こえてくる。

 ますます体が強張った。


 まずは、壱妃と弐妃をしっかりと愛して。

 次は自分の番――これからリテイクなのだと思って、グルグルと目を回していた。

 自分の中の『獣』まで、きゅうん、きゅうんっ、と委縮しているのが分かる。


 そして、


『刀歌? どうした刀歌!』


 ――きゅうっと。

 刀歌は、目を回しすぎて気を失ってしまった。

 剣しか振り回してこなかった純真少女のキャパを、完全にオーバーしてしまったのだ。

 そうして、そのまま朝を迎えてしまったのである。


「……………はう」


 刀歌は、両手をベッドについて落ち込んだ。

 まさかのリテイクまで記憶なし。

 しかも、今回は、うっすらとした記憶さえもない。

 いや、流石にあの状況では、リテイクはなかったのかもしれない。

 いずれにせよ、大失態である。流石に落ち込んでしまう。

 自分はただの隷者ではない。参妃なのだ。

 あの人を愛し、愛されて、いずれは子も宿して、慈しんで育む。

 その最初の第一歩が、この有様だ。

 刀歌は、ちらりと眠るエルナとかなたに目をやった。

 二人とも、幸せそうに微笑を浮かべている。

 壱妃殿と弐妃殿は、夜伽の役目を全うしたに違いない。


「………むむう」


 出遅れている参妃としては、唸るしかない。

 と、そこで気付く。


「……? 主君?」


 刀歌は眉を寄せた。

 室内に、主君の姿がない。

 この部屋は、本来主君が使っていたはずなのに。

 別の部屋にいるのだろうか?

 刀歌はベッドから降りた。

 そして、ぐっすり眠っているエルナたちを起こさないように部屋から出た。

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