第43話 魔王は語る②
明くる日の朝。
「さぁてさてェ。皆さん」
少し間延びした声が、教室内に響く。
ボサボサ髪の、白衣を纏う人物。大門紀次郎の声である。
「早速、今日も授業を始めようと思いますがぁ、そうですねェ。まずは、前回の――
そう言って、大門は教室を見渡した。
そこは、秘密裏に引導師を育成する特殊な学校の一つ。
「近年、
大門は、教壇に両手をついた。
「そうして発現したのが
「先生」手を上げて発言したのは、クラスをまとめる委員長の女生徒だった。
「それって、うちの学校の模擬戦闘とかでも使われる術ですよね」
大門は「はいィ」と頷いた。
「うちの学校にも封宮を創れる教師はいますからねェ。封宮は非常に便利なのですよォ。封宮内での損害は、解除時には全く周囲に影響を与えませんん。設備も不要ですしィ、損害も気にする必要もありませんん。ですが、欠点もあるのですよォ」
そこで大門は生徒の一人――エルナ=フォスターに声を掛けた。
「復習ですゥ。答えてくださいィ、フォスターさぁん」
「はい」エルナは立ち上がった。「封宮は決め手にかける術です。使用する魂力の量にも左右されますが、B級以上の我霊だと致命傷までは与えられないと聞きます」
一拍おいて、
「加えて、使用に必要な魂力が大きすぎます。発現させるだけで1000もの魂力を消費し、B級以上だと致命傷も与えられない。系譜術を持つ者なら使用しない術です」
「……ええ。そうですねェ」
大門は苦笑を零した。
「汎用の術としては、封宮は最上位のものですが、結局、系譜術ほどの戦闘力はなくゥ、封宮師は、どちらかというとサポートを主体にしますゥ。我霊を封宮に閉じ込め、退治は系譜術を持つ引導師に任せるゥ。それが今の在り様ですねェ」
大門は生徒たちに目をやった。
「あなた方の中には系譜術を失伝した家系もありますゥ。ですが、封宮師のようにサポートを主体にした活躍の道もあることを憶えておいてくださいィ」
大門は、ニカっと笑って告げる。
「では、皆さん。今日の授業を始めましょうかぁ」
◆
「……う~ん、
放課後。
教室に残った片桐あずさは、ポッキーを片手に呟いた。
「うちの家系も系譜術がないからなぁ。それもありなのかなぁ」
「ええ~」
エルナが、あずさが手に持つポッキーの箱から一本拝借した。
椅子に座りつつ、ポッキーを口に咥える。
「本気で言っているの? あずさ?」
エルナは言う。
「あずさの魂力って、確か82だったよね? 仮に100ぐらいの魂力を持った人と《魂結び》で増加しようとしたら……」
エルナはポッキーを咥えながら、指を折っていく。
そして少し青ざめた。
「……十二人以上の隷者が必要になっちゃうよ」
「……う」
あずさも、顔を引きつらせた。エルナはさらに続ける。
「校内にも隷者がいる人もいるけど、それでも最大で五人ぐらいだよ」
「………うう」
「ちなみに、うちのゲスお兄さまは十四人だって」
「……それはまた凄いわね」
あずさはポッキーを食べきって、机に肘をつき嘆息した。
「まあ、有名な当主クラスだと、愛人兼隷者って十四~五人ぐらいいるってよく聞くものね。けど、私には無理だわ。そんな数の男の人とエッチなんて洒落にもならないし。逆ハーレムなんて無理無理。そもそも、そんな人数を受け入れるキャパが私にある訳ないし」
他者から魂力を供給する《魂結び》だが、無尽蔵に行える訳ではない。
個人差はあるが、第一段階だと五十~六十名。第二段階だと多くて三十名。さらに補足すると、第二段階の人数が多いほど、第一段階の人数上限が下がることが近年で分かっていた。
隷者に出来る人数にも、流石に限りがあるということだ。
「そうだよねえ……」
エルナも、あずさと同じ机の上で頬杖を突いた。
「まあ、それ以前にまず系譜術がないと《魂結びの儀》に勝てないよ。結局、封宮師って、負傷とかで戦線から引退した引導師がなるものだって話だしね」
「はあ~」
あずさは、溜息をついた。
「仕方がないわ。私は術のアプリ化で一儲けすることにするわ」
「あはは、あずさ、術のプログラミングが得意だしね。新作できたらまた頂戴」
と、エルナが朗らかに笑った時。
「……エルナさま」
不意に、声を掛けられる。
エルナが振り向くと、そこには無表情のかなたが立っていた。
「え? 杜ノ宮さん?」
変わった人物の登場に、あずさが目を丸くした。
次いで、エルナの方を見やる。
「え? エルナって、杜ノ宮さんと仲が良かったっけ?」
「あ、うん」
エルナは笑う。
「色々あってね。かなたはもう、私の妹のようなものなの」
「……………」
その紹介に、かなたは静かに頭を下げた。
あずさは、未だ驚いた顔をしていた。
「色々って……何があったの? しかもエルナのこと、『さま』付けだし」
「う~ん、まあ、本当に色々なんだけど……簡潔に言うとね。実はかなたも――」
と、エルナが説明しようとしたら、
「……エルナさま。お話が」
かなた自身によって止められた。
エルナが「ん? どうしたの?」と聞くと、かなたは「来客です」と答えた。
次いで、教室の入り口に顔を向ける。
「私と……エルナさまに、話があるそうです」
かなたはそう告げた。
エルナとあずさは、かなたの視線の先に目をやった。
「え?」「なんで?」
そして二人して驚いた顔をする。
彼女たちの視線の先。
教室の入り口には、一人の女生徒が立っていたのだ。
「……すまない。少し時間はいいか?」
エルナたちの視線を受けて、校内の有名人である彼女が言う。
「私の名は、御影刀歌と言う」
一呼吸入れて。
「エルナ=フォスターさん。杜ノ宮かなたさん。君たちに話があるのだ」
御影刀歌は、そう話を切り出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます