閑話 青い屋根の家(1)

 少しだけ、あの懐かしい家の話をしよう。


 元々、この辺鄙へんぴな場所に惚れ込んだのは父だったらしい。


 祖母と父と母とわたしの四人家族。


 覚えている一番古い記憶は半分に切って皮をいた林檎をかじりながら祖母に手を引かれて、山道を登っている情景だ。


 わたしは三、四歳くらい。おかっぱ頭、白いブラウス、紺のスカートにズック靴。

 もしかしたら、幼稚園帰りで制服だったのかもしれない。


「もう少しで着くからね」

 と、祖母が汗を手ぬぐいで拭いながら言う。

何処どこに?」

 わたしは林檎に夢中だから道などよくわかっていない。

「ほら、この上の方に、みんなで住むお家が建つのよ」

 そう言っているうちに働く大工さん達の声が聞こえてくる。


「お疲れ様です」

 祖母が挨拶しながら、持ってきた缶ジュースを配っている。

「今日は嬢ちゃんも来たんだね」

 日に焼けた大工さんから頭を撫でられて、わたしは恥ずかしくて下を向く。


 季節は……多分……初夏頃だったか。


 棟上げは済んでいたのだろう。

 青い屋根瓦が乗せられていたのを覚えている。


 青空と同じ色みたいだと嬉しかった。

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