最終話 青から蒼そして藍へ

 今、わたしの人生は青から蒼そして藍へと彩度を落としている。


 晴れ渡り一点の曇りすら無かった、一途でひたすらに真っ直ぐで、融通が利かずに、そうして傲慢ごうまんであったと今だからわかる、若いあの頃。


 明るい一面の青だけだったものが少しずつ、くすみを帯びて、世界がそんな単純なだけの答えを持ってなどいないと気づいた、あの時代。


 挫折と苦悩と絶望と諦観ていかんと…

 でも、その合間に、幸福しあわせや喜びや温もりも確かに、あった。


 だから、今、思う。


 空が移り変わるように、わたしが多彩な”青”の想い出を持っているように……。


 色々な人生があって、それはそのひとにしか見えない風景で。

 それは生きてきた二つとない記録で。


 自分以外の誰にも、いや、自分さえも自身の生きてきた道の真実ほんとうはわからないのかもしれない。

 正義の定義、幸福の定義。その危うさ。

 気づかずに皆、頼りない細い綱の上を渡っている。

 当たり前に今があることの奇跡を想う。


 途中の道連れはできても、人は最期には一人旅になる。

 これだけは確実に平等に。


 藍色の美しさは若い頃にはわからなかった。

 藍色にも色々あることも知らなかった。

 深藍ふかあい濃藍こいあい藍鉄色あいてついろ深縹こきはなだ……

 目も留めなかった色の美しさを今になって知る。


 多分、目をつむり、この意識を手放す瞬間ときまで、わたしは何かを知っていくのだと思う。

 それが、喜びにせよ、悲しみにせよ。


 わたしを彩ってくれた想い出と共に…

 この夕暮れ時を歩いていこう。

               。

               。

                 。

                。

                  。

   



 ※次回は

「青にまつわる物語」

【あとがき】色に魅せられて 

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