第4話 天色
実家からの帰りのバスに揺られながら、うとうとしていると、目の前に鮮やかな
小鳥のようにお喋りを続ける2人連れの少女はプールの帰りらしい。
降り止まない雨で思うように泳げなかったと不満げだ。
透明のビニールバックには水着とバスタオル。
ああ、そういえば、こんな青だったっけ……。
中学生の頃にスカート付きワンピース水着が流行っていた。
夏の初めに母と水着を買いにデパートの売り場に出掛けたわたしは、そこで一枚の水着に一目惚れする。
無地で
それに一体となっているスカートは自信の無い太ももも隠してくれる。
「これが……」
とわたしが声を出す前に
向こうの方で別の水着を見ていた母が、モダンな花柄のワンピースタイプの水着を手にしてやって来た。
「この花柄がオシャレでいいわよ」
母がニコニコしながら、わたしの前に水着を当てて見ている。
デパートの女性店員さんも一緒に、この水着は入荷したばかりで、色違いくらいしかない一点物なんですよ、と勧めてくる。
わたしは自分の好きな天色の無地のスカート付きの水着の方がいいと言い出せなくなっていた。
何と内気で自己主張の下手な子であったことか。言えないなら言えないでスッパリ諦めることも出来ず、沈みこんでグジグジしているわたしは全く可愛げのない女の子だった。
あの花柄の水着は今の大人になったわたしの目から見ると、無地の量産品よりもずっとオシャレだったと思う。
だのに、あれから何枚か水着を購入したと思うのだけど、覚えているのは、あの目にも鮮やかな水着ばかりで。
少女たちは次のバス停で降りていった。
天色の残像に、わたしは手に入らなかった、あの日の憧れの青を、ほろ苦く思い出していた。
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