第3話 青藍

 母はセンスのいい人で、かなり大胆なデザインのアクセサリーも良く似合った。



 あれは、もうかなり身体が弱ってきて一人では出歩けなくなっていた頃。

 珍しく行きたいところがあるというので個人の作家ものを扱っているお店に一緒に行ったことがある。

 そこで母が一目惚れしたのが、この何とも美しい紫みを含んだ青藍せいらんに、金を一刷毛ひとはけ撫でたような大きめのペンダント。


「派手過ぎないかしらねぇ」

 そう言いながら鏡をみていた母が胸元にペンダントをあてて、わたしの方を振り向く。


 生成のシンプルなブラウスに、ほんの少しだけ散らばせた光を秘めた様な深い青藍は、よく似合っていた。

 一刷毛の金も嫌味のないアクセントになっていて美しく

「上品な色あいだし、とても素敵よ」

 と、わたしは笑顔で答えたのだった。



 ふと、雨音に我に返る。


 実家での遺品整理の途中。

 どうしても思い出しては手が止まりがちになる。


「いらないものは始末してしまうからな」

 父は想い出の品などはいらないと言う。

 父らしい……と思う。


「これ、貰っていいかな?」

 わたしは青藍のペンダントを手に取り、父に聞く。


 自分で身につけることはしないだろう。

 それでもこの美しいペンダントが欲しかった。


 母と選んで、わたしが母にプレゼントした、最後の。


 手の中のペンダントをそっと撫でた。


 父は黙ってうなずきながら、下を向いた。



 雨は降り続いている。

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