第三幕 驕る平家 C

 尾田狂太郎の朝は遅い。

 いわゆる社長出勤というやつで、朝起きたのが10時、学校に登校してきたのが11時である。こんな体たらく、普通の学校だったら大問題である。廊下に立たされるのがオチだ。

 だが、学校はすでに狂太郎とリリスの手に落ちている。

 生徒も教職員も用務員さんも、みんながみんな狂太郎の下僕である。ゆえに狂太郎は怒られない。なにをしようが問題ない、狂太郎は学校のドクサイシャなのだから。

『おはようございますキョータロウさまぁ!』

 全生徒が狂太郎を出迎える。皆が狂太郎の進む道の脇に立ち、斜め45度のきっちりとした礼をしている。学校というより、お嬢様の邸宅のような感じだ。

「み、皆のモノ面をあげい」

「ははぁ!」

 隣に城跡があるせいか、どこか時代劇っぽくなってしまう。

「す、すげーなリリス。お前の魔法、まだ有効だったか……」

「ニャー、みんなキョータロウの忠実なる下僕だニャ。誰も裏切ることはないニャ」

「そーか、そりゃなかなか住みよい学校生活になりそうだなぁ!」


 教室に着く狂太郎であったが、そこで授業が行われてはいなかった。

 ただそこに、狂太郎専用の『人をダメダメにするソファ』があった。どうもそれが魔王たる狂太郎とリリスの玉座らしい。

「すげぇこのソファふかふかだぁ! 体力気力精力が吸い取られていく~」

「えなじーどれいんだニャー」

 そんなふうに、狂太郎とリリスは学校へ着くや否やぐうたら状態となる。そんな狂太郎たちを諫める人間はなく、

「狂太郎さまぁあ! どうかこのゲームをお納めください!」「課金用のグーグルプレイカードです!」「この秘蔵アニメDVDを!」

 といった感じで狂太郎に貢ぎ物をしてくる生徒たち、やはり公立高校だからか、その品々は庶民的なものだが、俗な人間である狂太郎には無問題。

「ニャニャニャー。なんでもかんでも手に入るニャー」

「すげぇぜ! 俺は本当に魔王になったんだ!」


 そしてものの1時間後で昼食となる。

 昼食はなんと、学生食堂にて狂太郎とリリスのための優雅なディナーがふるまわれるとか。もはや学校は狂太郎の邸宅のようなものである。

「狂太郎さまぁ! リリスさまぁ! どうぞお召し上がりください!」

「ご苦労、食堂のおばちゃん」

「ごくろーだニャ」

「狂太郎さまのお口に合うかどうかわかりませんが……」

「なぁに、俺たちはなんでも食わず嫌いせず食べるぜ!」

 そんな狂太郎たちの昼食は、なんと旅館の懐石料理に出てくるような『船盛り』であった。海のない奈良県なのに、船盛りにはマグロやサーモン、鯛、甘えびなどがふんだんに乗っていた。まさに贅沢品。こんなものばかり食べていてはなにかしらの病気になるのは必至である。

「キョータロウ! これがサシミというやつなのかニャ」

「ああ。醤油に付けて食うんだぜ」

「うまいニャ! やっぱりサカナはサイコーだニャ!」

 そんなふうに舌鼓を打つ二人。そう、もはや二人は浮世離れの貴族である。

「狂太郎さま! リリスさま! こっちにオヤツもありますよ!」

「ニャニャ! あれはツイッターで話題のコンビニスイーツとやらかニャ!」

 リリスは大はしゃぎである。

「すっげぇぜ! もう何でも手に入る! ここじゃ俺は魔王だ!」

「ニャー!」

「お前たち、俺たちじゃ船盛りもお菓子も食べきれねぇ。だからみんなでシェアだぜ!」

「おお! さすが狂太郎さま太っ腹です!」

 づかづかと、生徒たちが狂太郎とリリスに近づいた。頭に乗った狂太郎はさらなる饗宴を行おうとしていた。

「よぉし、じゃあみんな! 魔王さまゲームを始めよう!」

「魔王さまゲームとは、キョータロウ何なのニャ?」

「魔王さまの命令は絶対だ! 今から俺が言う出席番号の生徒に命令を出す、見事命令を達成できたらお菓子でも船盛りでも好きなものを食べていい!」

「おおおお!」

 それは一見すると狂太郎の太っ腹な提案のように思えるが、その実情は……

「じゃあ手始めにだ、1年C組の出席番号13番くん、俺に膝枕をしろ!」

「え、ええええ――!」

 そう高い声で叫んだのは、出席番号13番の唐沢木詩恋である。言わずもがな、狂太郎は詩恋の出席番号を把握済みである。

「ひ、膝枕って、あのぉ……。私の膝ですかぁ……」

「そうだぜ詩恋ちゃん、俺も男だからな、女の子の膝枕ってのはあこがれるぜ」

 ひねた性格の狂太郎も男の子である。その欲望はただ単純に一般男子生徒的な、ちょっとエッチなものだったりする。

「じゃ、じゃあその、失礼します」

「う、うぉおおおおお!」

 もじもじと詩恋が正座する。顔を真っ赤にさせて、ぎゅうっと目をつぶっている。今の詩恋はただただ狂太郎の命に従う下僕であるため、間違っても狂太郎にカッターナイフや彫刻刀を向けることはないので安心である。そう、安心膝枕である。

 狂太郎はどくどくとアドレナリンを放出させながら、詩恋の膝に頭を乗せた。「ひゃ」と詩恋が声を漏らす。いよいよ狂太郎は胸が飛び出そうになる。

(お、落ち着け、俺は大魔王だ! これくらいの享楽で緊張してちゃ、ビックになれねぇぜ)

 狂太郎は心の中の魔王を呼び起こす。そしてなんと、詩恋の膝の上でころころと転がった。

「ひゃ、ひゃん、狂太郎せんぱ……い」

「はっはっは、なかなかいい枕だぜ! 詩恋ちゃん、ついでに耳かきもしてくれないかな?」

「み、耳かきです……か?」

 いつもは詩恋に凶器となるようなものはつまようじ一本たりとも渡さない狂太郎だが、『今の詩恋ちゃんなら大丈夫だろう』とずいぶん狂太郎は楽観的になっている。

「せ、先輩……。じっとしててくださいねぇ……」

「おおう、なんという快感! 誰もが夢見るオトコのロマンを果たせたとは!」

 そんなふうに狂太郎はえも言われぬ快楽に溺れていた。

 一方そのころリリスはというと。

「ニャー、ふかふかだニャ」

「リリスちゃん、モフモフであったかいわぁ~」

 リリスは文月のあの豊かな胸に抱かれている。文月は狂太郎もといリリスの下僕となったため、その身体はおさわり自由なのである。

「フミヅキ、オヌシはワガハイのママのようだニャ」

「リリスちゃん、私のことをママだと思ってもいいのよ。ほら、ぎゅぅー」

「うニャー」

 と仲睦まじく、文月とリリスは抱擁している。それは心の清い人間が見ればすごくほほえましい光景なのだが……。

 心がどす黒く、ダークマターと化した狂太郎には別の次元のものに見える。

「リリス! 文月先輩のおっぱいは俺のモノでもあるんだ! だから片っ方を俺に譲れ!」

「狂太郎もナカナカ豪快になってきたニャ。いっそのことドーテーも卒業するかニャ?」

「それもいいが、俺の初めては、もうちょっと後だ。いまはまぁ据え膳食わぬは男の恥だ! せっかくの機会だ! 文月先輩のあのデカメロンを……」

 狂太郎は汗の滴る手で、邪悪なる右手で文月の胸へと手を伸ばす。そう、あと数ミリ。普段なら詩恋に殺されかねない状況であるが、今は皆が絶対的な狂太郎の信者である。それゆえ、狂太郎はなにをしても許されるのだ。

 目撃者がいなければ犯罪者はあぶり出されない。どんな所業も――魔王がやってしまえば咎められないのだ。その圧倒的な力に、無力な人間はひれ伏すしかない。

「あとちょっとで、おっぱいが――」

 その栄光のおっぱいを手にしようとした、そのとき。

 バコン――と、おもむろに食堂の観音開きの扉が開かれた。

「あん、この学校魔王の狂太郎さまに、アポなしで誰が来たぁ?」

 なんて狂太郎は、詩恋の膝枕の上で余裕ぶっている。

 そんな狂太郎を――オークでも見るかのような眼、否――眼鏡で見つめるのは、唯一『魅了』の魔法を受けなかった生徒、十全寺である。

「幻滅しましたよ、尾田くん」

「はぁ? 幻滅? こーんなに俺のことを崇拝してくれる人間がいっぱいいるのに、斜に構えて幻滅とかアンチ乙! 吠えることしかできないワンちゃんはおうちに帰りなちゃいねぇ~」

「せいぜいあなたは、お山の大将になっていなさい。今日こそは、私があなたを正してあげます。あなたの地位を、奈落の底へ引き落としてやります!」

「やれるもんならやってみろってんだ、メガネっ子野郎!」

 売り言葉に買い言葉。狂太郎の言葉に乗せられるようにして、十全寺は狂太郎のもとへと近づいてくる。

「ニャー、キョータロウまたあのしつこいメガネがやってきたニャ。どうやって追い返すかニャ?」

「追い返すまでもない。どーせ言葉だけのハッタリさ。まぁ、オイタが過ぎるようなら遊んでやっても構わないけどなぁ」

 狂太郎はその十全寺にさっぱり慄いていない。というより、十全寺の目をしっかりと見ていない。ただ横目に、やってくる十全寺を見ているだけである。リリスも同じように、ただ母性あふれる文月に甘えるばかりだった。

 そんな二人の――耳に。

 チャリン、と金属の音が響く。

「ん――」

 騒がしい食堂の中、その高く短い音は誰の耳にも伝わった。小銭が落ちた音か――と、庶民なら無意識的に視線を向けるだろう。

 狂太郎とリリスもその例にもれず、その音のもとへ目を向けた。

 そこには、その小銭を落とした音を発した本人である――十全寺がいた。その十全寺の手には、大きめの手鏡があった。

 鏡。それは見た人間の姿を映す。つまりは光を反射するもの――であるが。

「あっ――」

 天才である狂太郎は一瞬にして悟る。己の愚かさ、驕りを思い知らされる。

 リリスの魔法、『魅了』は特殊な光を相手に投射させて、相手をマインドコントロールするものだが、その光が反射されてしまえば、物理法則に則り、跳ね返り、光源へと戻る。

 つまりリリスの目へと戻るわけで……。

「うにゃぁあああああ! 目がぁ! 目がぁああ!」

「おいリリスしっかりしろ! そんな滅びの呪文を受けた悪党みたいなこと言うなよ! 死亡フラグじゃねーか!」

 しばらくリリスはうずくまる。目を抑えて、くねくねと体を動かしている。

 そんななか、どうも食堂にどよめきの声が上がっていく。ざわざわざわ……と、生徒たちが騒ぎ出す。

「なっ……。まさか」

 いったいどうして私たちは、俺たちは……と、困惑顔の生徒たち。さっきまで狂太郎を一も二もなく崇めていた生徒たちであったが、憑きものが落ちたみたいに、茫然自失としていた。

 推測するまでもなく。リリスの魅了が切れたのは明らかである。

「な、なんだぁこのカイセキリョーリみたいな船盛りはぁ?」「どうして私たち食堂に? もう授業始まってるし」「こりゃ集団催眠ってヤツ?」「もしくは宇宙人の仕業か!」「こんなところにお菓子もあるしー」「なんなのこの『キョウタロウ様とリリス様』って書かれた団扇は……」

「…………」

 終わってしまった、やってしまった……。

 狂太郎は冷や汗を掻く。築き上げてきた狂太郎の票がなくなるということよりも、今はこの状況に対する弁明をどうするかを考えなくてはならない。

「あるロボットアニメの主人公は『逃げちゃだめだ!』と言っていた! だがかの中国の軍事思想家の孫子曰く『三十六計逃げるにしかず』という! つまりだ、ややこしいことになったら逃げるが勝ちだ!」

 RPGでも厄介な敵は逃げるに限る。それが狂太郎の戦法である。

 だが世の中そううまくいかない。

「まちなさい!」

 狂太郎の背に、ビシっと声が叩きつけられた。

「尾田くん、君はこの学校の全校生徒、および教職員、用務員さんに多大な迷惑をかけました。そのことについて、謝罪はないんですか?」

「は……」

 狂太郎は二の句が継げない。

 そんななか、ざわざわと生徒と職員が話し始める。「私たちの集団催眠って」「尾田の仕業なのか……」「あの2年の変人の……」「たしか去年は学校のネットワークを乗っ取って停学になったとか噂あったけど」「またヘンなことしでかしたのかよ……」

 うなぎ上りだった狂太郎の評価は地に落ちる。それどころか、死体に鞭打つように罪を犯した狂太郎は散々に叩かれる。

 不祥事を起こした地方議員が、ネット民のオモチャにされるみたいに。大罪を犯した狂太郎に、もう表を歩く権利さえも許されない。

「は、はははっ……。お、俺が何をしたっていうんだよ!」

「あなたがおかしなことをした、それは検証するまでもなく明らかな事です」

「は、はぁ? そんなの状況証拠だろうがよぉ! もっと確固たる証拠とかあんのかよ! 証拠がなきゃ警察も弁護士も動かないんだぞ!」

「あなたは現行犯ですよ」

「は?」

「あなたは自分のかわいい後輩に、無理矢理膝枕をさせている。鏡で見ないとわからないですか?」

 十全寺の見せる鏡の中に、すっとぼけた顔の狂太郎が――かわいい後輩、詩恋の膝枕の上で寝っ転がっている。その詩恋は、なおも変わらず赤い顔。なんだこれは、いかがわしいシチュエーションをするという噂のオトナのお店なのか……。

「せ、先輩! わ、私どーして先輩に膝枕を!」

「し、詩恋ちゃん落ち着いて!」

「ひゃん、う、動かないでくだぁーい!」

「ぐはぁあああああ――」

 狂太郎はぶん殴られた。詩恋ちゃんというか弱い存在に。アニメでも漫画でも、どういうわけか女の子は破廉恥なコトをされると腕力が10倍ほどになるそうだ。物理法則がおかしい。

 そのまま狂太郎は床にたたきつけられる。

「う、うぐぐっ……」

「私はすべて見ていました。みんなが心を操られて、あなたに従うようになっていたことを。あれはいったいなんなんですか」

「そ、そんなの俺が知るかよ……」

「まさか原理も知らずにやっていたと? なら、あなたは今後一切あのようなことはやらないと誓いなさい!」

「いったい誰の権限でそんなこと……」

「生徒会長の権限です。現生徒会長はこの私なのですから」

 と十全寺はきりっとした眼鏡で言い放った。

「もし同じようなことをしても、もうあなたの策は分かっています。なんらかの方法で、生徒たちの目にアヤシイ光を送っていた。あの講堂での出来事を回想すれば推測がつきましたし、私があなたに“洗脳”されなかったことも説明がつく。あとは応用です。その“洗脳光線”的なものを反射させてやれば自滅する。しかしまさか、こうも簡単に反撃が効いたとは拍子抜けです。あなたは本当に、腑抜けになっていたんですね」

「あ……う……」

 狂太郎は項垂れるばかりだった。魔法も異世界も知らない十全寺が、こうも論理的に反撃を仕掛けたとは寝耳に水である。追い込まれたときこそ、力を発揮するという、狂太郎並みの“狡猾さ”も持ち合わせているそうだ。

 そこに、狂太郎の“驕り”があったため、狂太郎は負けてしまったのだ。

「さぁ、尾田くん。今なら謝るだけで許してあげましょう。こんなおかしなこと、処分をしようにも、どう処分をすればいいかわかりませんし。ただ、私たちの気持ちが収まりませんので、ここで潔く謝ってくれたら、許してあげますよ」

「く、くそぉ……。どうして俺がこんな目に! 神様は不公平だぁ! こんな教科書的模範的善人な俺が罰を受けるなんて!」

「あなたは自分というものを見つめなおしたほうがいいでしょう」

 十全寺はすかさず鏡を突き出し、狂太郎を映す。

「おいリリス! お前も寝てないで何とかしろ! そーだ! また魅了の魔法をやってしまえばいいんだ! 鏡がなんだよ! そんなものリリスのチート魔法でぶっ壊してしまえば」

「う~にゃぁ~……?」

 起き上がったリリスは、初めに十全寺の持つ鏡を見た。そしてその中の“自分”の姿を見ると……。

「なんて……なんて美しいんだニャ!?」

「は?」

「この端正な耳、サインカーブを描くシッポ! 萌える笑顔! ワガハイはなんてプリチーなんだニャ!」

「あ゛…………」

 まるで他人のセリフを読み上げているかのような、違和感のあるリリスの言葉。

 なんやかんや言って、リリスの言葉はどこか威厳のある、へりくだった感じのものであるが、どういうわけか、今のリリスは自分に酔っているような感じである。

 そう、見るからに……酔っている。ちょうどついさっきまでの生徒たちのように……。

「そうか……。『魅了』の魔法が跳ね返されて、リリスがそれを受けたから……。リリス自身に『魅了』がかかったことになったってワケか……」

 自分で自分を『魅了』する。そんな自己完結した愛である。

 リリスは自分という存在に魅了され、酔ってしまっていた。鏡を眺めて、髪を弄って、ポーズを決めて……。『鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁ~れ』というお伽話があるが、まさしくそんな感じのナルシストとなってしまっている。

「おいリリス目を覚ませ! お前は魔法にかかってるんだぞ!」

「ニャー、この宇宙一美しいワガハイに触れるでないニャ! 誰もワガハイに触れてはいけないニャ!」

「お前はレッドリストに掲載された天然記念物か! うぬぼれんな! ケツの青いお前に鏡なんか1億年早いんだよ!」

 しかしリリスは狂太郎のコトバなんか耳に入れず、ただ自分の世界に浸って、自分に酔うばかりだった。

「り、リリス! なんとかしてくれよ! 主人である俺が絶体絶命なんだぞ!」

「ワガハイは鏡を見るので忙しいニャ」

「あー! 頼みの綱がぁ――!」

「尾田くん、早く謝罪をしなさい。今すぐしないなら、警察に突き出すという手も考えますよ。あなたの悪逆非道を残したテープもありますし」

「ああああああ! ストップストップ! わかった俺が悪かったぁああああああああ!」

 そして狂太郎は床に額を付けて、日本の伝統『土下座』を行う。

 その後、狂太郎の背中に幾多もの蹴りが炸裂し、空き缶や石が投げられる。どう見ても校内暴力だが、犯罪というものは目撃者がいなければ立件されない。目撃者全員が加害者なら、それはもはや犯罪として浮かび上がらないのである。

 なにはともあれ、自業自得である。

「あ……ぐ……」

「ニャー、いくら世間が騒がしくとも、ワガハイの美しさは揺るがないニャ!」

 慢心は死亡フラグ。

 それはいつか狂太郎が言った言葉であるが、それがブーメランとなって狂太郎の脳天に直撃した形となってしまった。

 もはや選挙どころではない――のはさっきと変わらないが。狂太郎の票はもう稼げないだろう。誰も狂太郎を支持する人間なんていないだろう。

 もぬけの殻となった食堂には、ナルシスト化したリリスと、ボロ雑巾となった狂太郎だけが存在していた。

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