第二幕 学校征服! A
「ん……」
狂太郎は目を覚ます。
カーテンはすでに開け放たれ、というより、部屋がすっかり昨晩のままの、乱雑なものになっている。
「寝落ちした……か」
しかし、寝落ちならほとんどの場合パソコンかタブレットの前で起きるはず。今朝はしっかり布団で眠っていたが……
(昨日……俺は)
そう狂太郎が記憶をめぐらしたとき、
「にゃあ」
と、自分が羽織っていた掛け布団からマヌケな声がした。
なぜか布団の中が湯たんぽを入れたみたいに温かい。今は5月で、湯たんぽなどの暖房器具は用意すらしていないのだが。
「なっ!」
掛け布団がモゴモゴとうごめいた。
それはしばらく軟体動物みたいに動いたあと、ひょっこりと――
ハダカの猫耳少女が現れた。
「ニャー、眠いニャ。ワガハイ、2時間しか寝てないニャ」
「わ、わ、わ!」
何故にハダカの女が布団の中に……。
狂太郎はいよいよわけがわからなくなる。その猫耳少女は朝日を背にぐわんとしなやかな肢体をくねらせる。どこか煽情的なポーズだが、カラダはまだまだ幼いもの。
「ニャ、なにをモジモジしているかニャ、キョータロウ」
「なんで俺の名前を!」
「なにを言うか! キョータロウはワガハイのご主人様ニャ。ワガハイはキョータロウの下僕だニャ」
「俺は昨日いったいなにをしたんだぁー!」
まさかこんな年端もいかない子供を捕まえて、下僕にしたと……。
「まったく、キョータロウはこの世界の大魔王になるオトコなのに、股の下のモノも小さいし、細かいし」
「大魔王……って」
狂太郎はいくらか判断力を取り戻し思い出す。
コイツはリリス。大魔王の娘で、昨日なりゆきで下僕にした女の子。
「リリスお前! どーして素っ裸なんだよ!」
「寝るときは素っ裸になるのがフツーだニャ」
「オマエは見た目からしてフツーじゃねぇんだよ! オトコの前でむやみやたらに素っ裸になるんじゃねぇよ!」
「安心するがいいニャ。ワガハイはキョータロウの忠実で誠実で邪悪なる下僕、この身はキョータロウのモノだから好きに使っていいニャ」
「好きに……って、オマエ、どういう意味で言ってるかわかってんのか?」
「ニャーわかってるニャ。たしかキョータロウの大好きなゲームでよくあるシチュエーションだニャ」
そういってリリスはタブレットをタップし、PCゲームを起動した。それは本来、18歳未満の狂太郎がやってはいけないものなのだが……
「たしかこの『今夜はお前を寝かさない』を押せば、キョータロウの好きなエッチな展開になるはずニャ」
「ば、バカ! 子供がそんなものプレイしちゃいかんだろうがぁ!」
「ダメなのかニャ? でもキョータロウもまだ18歳未満じゃあ」
「お、俺は……数え年で足りるからいいんだよ! 早生まれなんだよ!」
それでも法律上は、厳密にはいかんのだが……。
「でもキョータロウはこー言うのが好きなんだろニャ?」
「この野郎、昨晩タブレット渡したら、俺の個人情報をじろじろ見やがってぇ!」
「ワガハイはキョータロウの忠実なシモベだから、キョータロウの趣味嗜好は把握しておかなきゃならないのニャ。だから昨晩でキョータロウの検索履歴、閲覧履歴、脾臓フォルダはすべて把握済みだニャ」
「な、ななんだってぇ――!」
狂太郎は漫画の見開きページみたいな、大絶叫を起こした。
なにせ、狂太郎の恥部の隅々がリリスに暴かれてしまったのだ。もう狂太郎はお嫁にいけない。
「キョータロウはイモウト好きで、キョニュー好きで、時おりジュウミミ好きと。うニャ、イモウトとジュウミミはできるけど、ワガハイ、キョニューにはまだ成れないニャ。すまないなキョータロウ」
「なんで幼児体形のお前が俺を誘ってんだよ!」
「ワガハイはだから110歳でー」
「その話はいい! 俺はオマエに手を出すほど欲求不満じゃねぇよ!」
「でもキョータロウ、股の下がたってるニャ」
「な゛」
狂太郎は股を抑える。
「こ、これは生理現象だ……。ってそんなベタな話はいい! いいからお前は服を着ろ!」
「ジャージはもう汗臭いニャ。ほかの服に着替えたいニャ」
「へいへい、わかったよ。まったく、こっちも朝の支度があるってのに」
「そういえばキョータロウ、世界征服とやらはまだやらないのか」
「あー、世界征服か。まー今はまだ、のんびり作戦を考えておくよ。急いてはことを仕損じるっていうし」
「なるほどニャ。ネットの賢人たちも『明日から本気出す』と言っているし、のんびりやるのも悪くないニャ」
「ネットの賢人……?」
いったい昨晩、リリスの身に何が起こったのか。狂太郎は寝ぐせのできた頭を抑えベッドから立ち上がる。
ベッドの向こうの床に、円盤が散乱していた。
「はっ……」
それはアダムスキー型の未確認飛行物体――というわけでなく。
DVD、もしくはブルーレイの
「なんだこりゃ、全部俺の秘蔵のアニメDVDコレクションだが……」
「キョータロウ、面白そうだから借りといたニャ」
「まさかこれ、全部見たのか?」
「そうだニャ」
「全部で……100本ほどあるが」
床に散乱しているのはアニメ映画と、有名アニメのテレビシリーズ、もしくはOVAのDVDである。1本およそ1時間から2時間の尺であるため、すべて見終わるには100時間以上はかかるのだが……
「ぜーんぶ早送りで見たのニャ」
「は、早送りだって……」
たしかに早送りで見れば100本のDVDを見ることはできるかもしれない。しかし、早送りで再生されるアニメなぞ、忙しい人向けのよくわからん内容になるんじゃないのか。
「そうか、猫はネズミを捕らえるために動体視力がいいんだよな。だから早送りでも問題ないと」
「そうなのニャ。日本のアニメは最高だったニャ」
「まったくお前はなんに対しても規格外だな……」
狂太郎は散乱したDVDの円盤を片付けていく。
「ミヤザキハヤオとシンカイマコトはカミサマなのニャ」
とすっかり日本文化に洗脳されたリリスがつぶやくのだった。
狂太郎はあくびを溢しつつ、淡々と朝食の準備にかかった。
今朝は下僕であるリリスのぶんの食事も必要となるが、一人作るのも二人作るのもそう労力は変わらない。ベーコンエッグとトーストという、簡素な朝食を盆にのせて狂太郎はリビングへと向かう。
リリスはタブレット片手に、朝の情報番組を横目で見ている。異世界人のくせしてすっかり現代人のようなスタイルとなっている。ちなみに服装はシックな白のブラウスと黒のスカートである。意外と似合っている。
「ほら、リリス朝食だぞ」
「うむ、ご苦労だニャ」
「ちょっと待てリリス、さっそく俺とオマエの関係が逆転していないか?」
「にゃ?」
リリスはタブレットから顔をあげる。
「どうして主人である俺が下僕であるお前の世話をしてるんだよ! おかしいだろうが!」
「ニャー、しかしキョータロウ、この国にはロードウキジュンホーがあるんだニャ」
「は?」
「労働基準法第一章の第一条『労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない』、だからワガハイはキョータロウの下僕であるが、一労働者として、最低限のブンカテキな生活をキョウジュする義務があるだニャ」
「なるほどな」
「そういうわけでワガハイはのんびりするニャ」
「んなヘリクツがまかり通ると思ってんのかこのネコミミ!」
狂太郎はリリスの猫耳をつまんだ。
「にゃにゃあ!」
「テメェは生活保護不正受給者か! これじゃあ下僕じゃなくてただの居候じゃないか!」
「なるほど、昔のノリスケさんと同じだニャ。もしくは地球侵略をたくらむカエルとか……」
「すっかり日本のサブカルに精通しやがって! お前のその要領よすぎる頭脳はどうしてそんなくだらないことに使われんだよ!」
それは狂太郎自身にも突っ込まれるべき話だが。
「キョータロウは細かい男だニャ」
「この穀潰し野郎がぁ! テメェ、いつかぜってぇ生活費は利子をつけて返してもらうからな!」
「安心するニャ。そんなもの、世界征服のをなし得たあとの出世払いでなんとかなるニャ」
「んなこと言って踏み倒すんじゃねぇぞ! ギリシャみたいに!」
狂太郎の叱責を尻目に、リリスはのほほんとタブレットを操作し世界経済に目を向けている。
「しかしお前、昨日は俺が寝ている間にアニメ三昧にとは」
「ちゃんと漫画も小説も読んでおいたニャ。ネットの情報も全部吸収したニャ」
「全部……?」
「そーだニャ。なにせワガハイはキョータロウとともに世界を征服しなければならないから、この世界のことについてあらゆることを知っておかなければならないニャ」
「あらゆること……たって、情報なんてもん、そんなたくさん頭に入れられるもんなのか」
「ワガハイを誰だと思ってる!」
「穀潰しの住所不定無職魔王の娘だろうがよ!」
「なにを言うか! ワガハイの頭脳は例えるならすーぱーこんぴゅーた、あらゆる知識を押し込むことができるちゅーりんぐましーんなのニャ」
そう得意げに言う大魔王の娘、リリス。
たった一日でネットの情報、アニメ、漫画、その他有用もしくは無用な情報を吸収できるものなのだろうか。ネット上の情報は10億テラバイトとも言われている。狂太郎のパソコンの容量は1テラバイトだからその10億個分という、さっぱりわけのわからない膨大な量である。
それこそ、すーぱーこんぴゅーたじゃないと理解できないし、覚えきれない。
しかし、狂太郎はリリスの荒唐無稽な物言いを一蹴できなかった。なにせリリスはたった一日で達者に日本語を理解できるようになったのだ。日本語という、文字が多くて意外とややこしい言語を――だ。
「お前がただの穀潰しじゃないっていうテストをしてみよう」
「ニャ? ワガハイの性能テストかニャ」
「『フェルマーの最終定理』の証明をしてみろ!」
「フェルマーの最終定理は、3以上の自然数nについてx^n+y^n=z^nとなる0でない自然数x,y,zの組が存在しないっていう偏屈おじさんが考えた定理で、証明はn=4のときとnが素数のときの場合だけを考えればいいニャ。n=4のときはピタゴラスの定理で解けて、n=3のときは虚数iを使えば解けるニャ。あとは谷山・志村予想がー」
「ストップ! これ以上証明したら紙面が足りなくなる!」
狂太郎はリリスの口に向けて手をかざす。
「……じゃあ次はひも理論で」
「ひも理論とは――」
まるでウィキペディアの記事のように、淡々とリリスは情報を述べる。それは昨晩リリスがタブレットを操作して得た付け焼き刃の知識である。リリスの人知を超えたスーパーコンピュータ的頭脳と、猫の動体視力で大量の知識を海綿(スポンジ)のように吸収できたそうだ。
「日本のTVアニメが放送されたのはいつだ?」
「いまのよーな30分アニメは西暦1963年の『鉄腕アトム』が初めだニャ」
「……ほんとうになんでも知ってやがるようだな」
「ワガハイの知能指数は52万です!」
「おまけに漫画のセリフも網羅してるたぁ……」
狂太郎は驚くばかりだった。なにせたった1日。それだけの短い期間で情報を吸収したのである。
「いわゆる、瞬間記憶能力ってヤツか」
「ニャー、ネットで聞いたことあるニャ。ワガハイはサヴァンというやつかニャ」
「そもそもお前はニンゲンじゃねぇし。なんにせよ、お前は情報を一瞬で吸収してしまう能力があるようだ。その能力で、ネットの情報を吸収するとはな……」
「ネットはすごいのニャ」
「まるでディープラーニングだな」
「ニャ?」
「人工知能の話だよ。ニンゲンの作った電子的な頭脳で、それはネットの膨大な情報――いわゆるビッグデータを吸収して知識をつけたものでな。たしかグーグルが猫を概念的に認識する人工知能を作り上げたとか言ってたがな……」
ビッグデータを吸収する人工知能。それとどこか似たリリス。果たしてリリスは人工知能の果てのように特異点(シンギュラリティ)を起こさないものか、と狂太郎は思う。
「だが、ネットで得た知識で悦に入るんじゃねぇぞ」
「なにを言うのにゃキョータロウ! ネットの情報はゼッタイに正しいニャ! そのほかの情報なんてマスコミや謎の団体やフリーなんとかに支配されていてデタラメに決まってるニャ」
「典型的なネット右翼になってらぁ……」
これはある意味誰もが通る道かもしれないけど……。
無邪気なリリスはネットの情報をすんなり理解し受け入れる反面、それ以外の情報は信じなくなっている。ネットの歯に衣着せない物言いが、傲岸不遜なリリスに響いたのだろうか。
「って、すっかり朝食が冷めちまったな……」
すっかり放置していた朝食を並べ、狂太郎は手を合わせる。
「いただきますニャ」
「こらリリス、タブレット片手に飯を食うなよ」
「安心するニャ。このタブレットは防水仕様だから問題ないニャ」
「まったく無駄に知識がついてるからこっちの言葉が届かねぇ……。お前みたいな小賢しいガキは嫌いだ」
「ワガハイは見た目は魔物、頭脳はスーパーコンピュータなのニャ」
「だからタブレットは直しておけ! てゆーかそれ俺のだぞ! 勝手に私物化するな!」
「キョータロウはコマカイ男だニャ」
「お前はちっとは常識を身に着けろ!」
狂太郎は幾度目かのため息のあと、箸を取る。
「ニャー、目玉焼きだニャ。ラピュタを見て食べたくなってたのニャ」
「目玉焼きには何かけるんだ?」
「ワガハイは……ニボシをかけるニャ!」
リリスはどこから持ち出したのか、ニボシの入った小袋を取り出す。そしてそれを目玉焼きにかけた。
「その発想はなかったな……。って、お前何勝手にニボシを台所から取ってきてんだよ!」
「ワガハイのオヤツだニャ」
そう言ってリリスは小袋のニボシをつまむ。ニボシは出汁を取るものだが……。リリスはニボシがたいそう気に入ったのか、美味しそうに目玉焼きと一緒に食べていた。
「全くお前は自由人だな……。そんなにニボシを食われちゃ、味噌汁の出汁が取れねぇじゃねぇかよ……」
「キョータロウはコマカイ男だニャ」
「何度俺はコマカイ男って言われりゃいいんだよ」
『キョータロウはコマカイ男だニャ』
「なぜ二回言った……?」
「違うニャ―。ツイッターでつぶやいただけだニャー」
「なっ! なにゆるりと俺のことつぶやいてんだよ!」
見ると、リリスはツイッターでツイートしていた。アカウントは『リリス(自撮りの顔写真)』であるが、メールアドレスは狂太郎のものである。
「勝手に俺のメルアドでアカウント作りやがって……」
「仕方ないニャー。ワガハイは住所不定無職の魔族だニャー」
「なにその100パーセント犯罪臭する生命体は! こんなやつを居候にする奴の気が知れないなぁ!」
「ソイツはとってもいいやつだニャー」
「ああそうだよ! いつの時代もお人よしが損をする運命にあるんだよ!」
狂太郎は頭を抱え、そして天で笑っているであろう神々を睨み――
「あっ――」
部屋の壁にかけられた電波時計が8時40分となっていた。
「や、やべぇぞ! あと5分、秒に換算して300秒原子時計が時を刻んだとき俺は遅刻してしまう!」
「タイヘンだニャ。遅刻したらキョータロウはのび太くんやカツオくんみたいに廊下に立たされてしまうのかニャ」
「高校生になって廊下に立たされることはねぇよ! ただ俺の出席日数がっ……」
「キョータロウはバカなのかニャ」
「バカじゃねぇよ! ただ、出席日数が足りなくなったら――学校サボれねぇだろうが!」
怠惰な性格の狂太郎はサボりグセがある。
そのため、そのサボりをするための『出席日数』を稼いでおかなければならない……。というよくわからない矛盾した理念があるのだそうだ。
「あーどうすればいいんだ!」
「ニャー、ワガハイが未来から来た猫型ロボットならどこでもドアを出せるのだがニャ。あいにくワガハイは異世界から来た猫型魔王だニャ」
「くそぉ、どーすればぁ!」
「キョータロウの秘められし『瞬間移動』能力で移動すればいいニャ」
「お前はさっきからアニメにかぶれた話ばかりしやがって! ここは現実だ! ワープ航法なんざ確立されてねぇんだ! 俺の50メートル走のタイムは10秒! こんなタイムじゃ間に合わない!」
「そんなこと言ってる間に時間が過ぎてるニャ」
「もー間に合わねぇ!」
狂太郎は絶叫し嘆く。手を床に突いてただ震えるばかりだった。
「キョータロウ、しっかりするニャ」
「ダメだ……。せっかく家の近くの学校を選んだってのに、時間に気づかないとは……。ああ、俺の一生の不覚!」
「……とにかくキョータロウは時間までに学校にたどり着けなきゃいけないわけかニャ」
「そーだ。でも俺の脚力じゃ」
「ならキョータロウ、ワガハイの背に乗って学校に行けばいいニャ」
「……は?」
リリスがなにを言っているか狂太郎には一瞬わからなかった。
ただ目の前には、ネズミを捉えようとする猫のような姿のリリスがいた。床に四つん這いになっている。
「ワガハイの脚力ならチョチョイのチョイでキョータロウの学校までたどり着けるニャ」
「まじかよ」
「タイタニック号に乗ったつもりで乗るがいいニャ」
「それ沈むフラグじゃねぇのかよ」
しかし、問答をしている間もない。
狂太郎は魔法少女も舞台女優もびっくりの早着替え(10秒)で黒い学ランに着替える。
そして、愛車リリスにまたがる。
「って、大丈夫なのかこれ」
小さな体躯のリリスに、狂太郎がまたがるというのはどこかおかしな感じである。しかしリリスは軽々と狂太郎を背に乗せる。
「キョータロウ、しっかり捕まってるニャ」
「どこをつかめばいいんだ。耳でもつかめばいいのか……」
「ワガハイと言う名のネコバス、出発だニャ」
「待てお前、俺の学校の場所わかってんのかよ!」
「安心するニャ。タブレットのグーグルマップで確認済みニャ」
「ほんと便利な世の中だなぁ!」
リリスはニャ、っと鳴くと、窓辺から飛び出した。
「ぎゃああああああ!」
急降下。三階からコンクリート地面へ。
おそらく、猫の血の通うリリスでなければ大怪我をしていたであろう。猫は高いところから落ちても怪我をしない。三半規管が鋭く、体も柔らかいためだ。
というわけで、三階から落下したものの狂太郎は無傷であった……が。
「うがっ……」
遊園地の絶叫マシンを避けてきた狂太郎にとって、三階からのダイブは酷なものだった。
「行くニャキョータロウ!」
「待てお前交通規則を守れ速度を落とせぇ!」
自転車通学する山之上高専の生徒をかき分け、リリスは疾駆する。ちりんちりんと自転車のベルが鳴る中、半分失神しかけている狂太郎とにこやかなリリスは線路の脇の通学路を駆けていく。
城跡前の石畳の道を通り抜ける。そこには小売山高校生がなごやかに登校する姿があった。
(あれ……? 時間がヤバイのにみんなどうして)
狂太郎はスマホで時間を確認。そこに表示された時間はなんと8時35分。
(そ、そんな……。リビングの時計が遅れてたのか。そんな理由で俺は戦闘機並のこのネコバスに乗る羽目になったのかぁ!)
「どーしたのニャキョータロウ」
「あああああ! お前が来てから散々だぁ!」
狂太郎が叫ぶ中、リリスことネコバスは小売山高校へと到着した。
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