遠いところ・初恋・泣かない

 僕の初恋の相手は、手の届かない遠いところにいる。


 くりっとした大きな瞳、東洋人とは思えない白い肌、聞いているだけで脳がとろけそうになる甘い声。彼女を構成するすべてが、美しい。神の祝福を受けたのではないかと錯覚してしまうほどの美が、彼女には詰まっている。


「ああ。こんなにも近いのに、こんなにも遠い」


 妹を、実の妹を愛してはいけないなどと、誰が決めたんだ。

 僕はこんなにも彼女を愛しているというのに、人が、法が、倫理が、僕たちの生きる世界を遠ざけていく。


「はあ」


 携帯の待ち受け画面に登録した彼女を見て、僕は思わず息を漏らす。それが感嘆による吐息か、落胆による溜息か、僕にはわからなかった。


 僕の世界生きる世界とは違う、遠い世界で生きる彼女。

 僕と彼女の世界が交わることはないとわかっている。けれども、彼女を思わずにはいられない。初めて出会ったその日から、僕の頭の中は彼女のことで一杯で、僕の胸の中は彼女を愛する気持ちで一杯なのだ。


「あんた、ほんと、いい加減にしてよ」


 えらく緩んだ顔で携帯を眺めているところを見ていたのだろう、母は目尻に涙を溜めながら震えた声でそう言った。


「ごめん母さん。泣かないで」

「あんたとこの子は、文字通り生きる世界が違うの。いい加減目を覚まして、普通の恋愛をしてちょうだい」


 そう宥めたのは逆効果だったのかも知れない。僕の言葉を聞いてなお、母は涙ながらに僕に縋りついた。


 悪いけど母さん、そのお願いは聞けない。

 どうして自分の感情に、嘘がつけるだろうか。

 僕はこの子を、妹を、愛している。


 交わらぬ僕たちの世界。

 変わらぬ僕の愛。

 それを確かめるかのように、僕はパソコンの電源を入れた。



『ときめき☆妹ラブ学園!~お兄ちゃん、だあいすき!~』

『お帰りお兄ちゃん! 今日は何をする?』

『▷お喋り ▷膝枕 ▶添い寝』



 彼女が生きる二次元の世界と、僕の生きる世界は、決して交わらない。

 それでもなおプレイに興じる僕を見て、母は再び泣き崩れた。

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