めいどかふぇ その16

 と、毬夢ちゃんが笑いを堪えながらメニューを覗き込んだ。


「もぉ、それこそ野暮だよ。こういうのはノリとフィーリングだよ?」

「……そういうもの、なの?」

「そうそう。メイドカフェって言うのは、料理だけを楽しむとこじゃないんだから」


 毬夢ちゃん、ナイスフォローですね~。


 正直な話、この店のメニューについてる『ペルシャ』だの『ナポレオン』だの『ロシアンブルー』だのに意味は一切ないんですよ。全部猫の種類の名前ってだけで、『にゃにゃにゃカフェ』らしさを演出するための要素でしかありません。


 ぶっちゃけて言えば、『猫的なモノにゃにゃにゃ』成分で溢れかえったバカバカしくもフレンドリーな雰囲気をひっくるめて楽しむのが正解なのです! どやぁ。


 けど、莉央ちゃんはやっぱり釈然としないようです。眉間に皺を寄せたままで、可愛い顔が台無しです。が、


「……じゃ、オムライスで」


 どこか拗ねたように言いました。すかさず毬夢ちゃんがツッコみます。


「ダメダメ、ちゃんと正式名称で注文しないとメイドさん困っちゃうよ?」

「う……ペルシャオムライスを、1つ」


「じゃあ私はラグドールカレーライス!」

「ありがとうございますにゃお嬢様。お飲み物はどうされますかにゃ?」


「え、っと……スフィンクスアールグレイ」

「私はオリエンタルココアで!」


「はいにゃ! みんにゃ~、〝いつき〟のお嬢様達がたっくさん頼んでくれたにゃ~」

『お嬢様、ありがとにゃん♪』

「………………………………」


(絶句すんな莉央。慣れるから、すぐに慣れるから)


 むしろそれは慣れていいんでしょうか。まぁ私も慣れちゃいましたけど……あなたもまだ慣れてません? うふふ、頑張ってください。


「お客様、お待ちどうさまですにゃ! ベンガルカルボナーラ、ですにゃ!」


 あら、料理が来たみたいですね。良いタイミングです。ドッペル君も厨房に行っちゃいましたし、食べちゃってください。


「お嬢様はロシアンブルーカフェオレでよろしかったですにゃ?」


 はい、大丈夫ですにゃ。ありがとうございますにゃ。


 ……はい? 私の食べ物、ですか? いえ、私はあなたが来るまでに食べちゃいましたので、飲み物だけで十分なのですよ。


「それではこれで全部になりますにゃ。他に追加のご注文はありますかにゃ?」


 あ、そうですにゃ……それにゃあ、食後のデザートにジェネッタプリンを2つ、お願いしますにゃ。


「ジェネッタプリンですにゃ? 分かりましたにゃ! みんにゃ~、お嬢様達が美味しいデザートを頼んでくれたにゃ~!」

『お嬢様、ありがとにゃん♪』


 にゃん♪ ……はい? いえ、玄人はこうして『にゃん♪』返しをするそうなので。


 ほらほら、あなたもやってみましょうよ。……ダーメ、食わず嫌いは良くないです! ほら、ギャップ萌えって……もう、聞いて下さいよ~!

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