めいどかふぇ その17

「お待たせしましたにゃ、お嬢様!」


 あ、ドッペル君が飲み物を持って戻ってきましたよ? ほ~ら、いつまでもカルボナーラにがっついてる場合じゃありません。


 ……あともう少しで食べ終わる? むぅ、分かりましたよぅ。それまで私の方であちらを観察しときますから。


「スフィンクスアールグレイとオリエンタルココア、どうぞお召し上が……」


 続く言葉を飲み込んでしまうドッペル君。その理由はお客様……莉央ちゃんと毬夢ちゃんにありました。


「へぇ。毬夢、あんたは樹々がこういうとこで知らない女見て鼻の下伸ばすような男だと思ってるってわけ? あぁん?」

「おぼっでばびおぼっべばび!」


 端的に言いますと、毬夢ちゃんの頬が、莉央ちゃんの手で鷲掴みにされてひしゃげちゃってます。


 親友の顔の輪郭を潰しながらも莉央ちゃんは笑顔です。けど、頬とか額の辺りがひくついていて、お怒りでいらっしゃるのは一目瞭然ですね~。


(……毬夢が余計な事を言ったんだろうな、どうせ)


 正解です、ドッペル君。『宇都宮君ってば、どのメイドさんがタイプだと思う?』って訊いちゃったのが発端ですね~。


 莉央ちゃんに樹々君絡みの冗談は通じない、って事ですね~。それを知ってるはずなのに、ぽろっと言っちゃうのが毬夢ちゃんらしいです。


「……今、私の頬が軋む音が聞こえました。そこについて何か感想は?」


 ようやく莉央ちゃんに解放された毬夢ちゃんが、暗い声音で言います。


「人目もあるし、手加減してあげた。あたしって優しいな、以上」

「ちょい待ち。骨が軋む次の段階って、もう病院のお世話になるレベルな気がします!」


「知ってる? 骨が折れても、時間かけたら自然にくっつくんだってさ」

「知ってますけどそれが何!? もぉ、そういうガサツなとこ直さないとホントに宇都宮君に嫌われるからね!」

「……へぇ、まだ言う?」


 あ……と青ざめる毬夢ちゃん。その目が助けを求めるようにドッペル君を見ました。


 ――先生、一生のお願いです。救いの手を私に――

 ――諦めろ、自業自得だ。骨くらいは拾ってやる――

 ――殺生な、恩人への仕打ちとは思えな、いや待ってホント待ってってば――

 ――ごゆっくりどうぞにゃ、お嬢様――


 まぁ凄い。一瞬のアイコンタクトでこんな会話が出来るなんて。ドッペル君と毬夢ちゃんはなにげに息ピッタリですね。


 アイコンタクトを終えたドッペル君は、飲み物を粛々とテーブルの上に置いた後、奥へと引っ込んでいきます。今度は料理を持ってくるんでしょうね。


 って、まだ食べてるんですか? 意外と食が細いんですね、あなたは。

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