めいどかふぇ その15

 満面の笑みでネコメイドを演じながら、ドッペル君はメニューをテーブルに広げました。


「へぇ、意外と色々あんのね。ちょっと値段高めな気がするけど」

「野暮な事言わないの。しかもメイドさんの目の前で」

「わ、分かってるわよ!」


 小声で怒鳴りながらも、顔を赤らめてドッペル君をチラ見する莉央ちゃん。自分の失言に気付いてメイドさんの顔色を窺ってるんでしょうけど……そのメイドさんもなんか顔を赤らめちゃってますね。


(そうやって焦る莉央、めっちゃ可愛いぞちくしょう)


 煩悩の塊ですね、あのネコメイドさん。さっきまでの仕事モードはどこ行ったんですか、まったくもぉ。


 ……ネコメイドだって1人の人間だから仕方ない? それ、なんか色々矛盾してません? もしかしてあなたもあの莉央ちゃんを可愛い~、とか思っちゃったんです?


 へぇ、思ったんですか。そうですか。……別に~? 怒ってなんかいませんし、そもそも怒る理由もないですし~?


 あぁ、そうそう。あとでデザート頼みましょうね? ちなみに私はプリンが大好きです。……奢ってくれるんです? うふふ、ありがとうございます~。 


「ねぇ、この『ペルシャオムライス』って何? どんなオムライスなの?」


 と、あーだこーだとメニューを見ながら議論を交わしていた莉央ちゃんが、ドッペル君に尋ねます。彼はすかさず答えました。


「とっても美味しいオムライスにゃ!」

「……あっそ。じゃあこの『シャムナポリタン』は?」


「とっても美味しいナポリタンにゃ!」

「…………」


(莉央、睨むな。言いたい事は痛い程分かるから)


 どう説明すれば莉央ちゃんが満足してくれるのか、ドッペル君は数秒頭を悩ませます。そして、意気揚々と言いました。


「勿論それだけじゃないにゃ。お嬢様への愛がぎっしり詰まってるのにゃ!」

「は? 愛?」


(いや、頼むからそんな冷たい目で見てくれるな莉央。これでも一応お前の彼氏のドッペルなんだよ。傷つくから許してくれ)


 この場合、どっちが悪いんでしょうね~。この店の料理、というか『にゃにゃにゃカフェ』としてのシステムか、そのシステムに順応する気ゼロの莉央ちゃんか。

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