すとーきんぐ その2

 樹々君と莉央ちゃんは、毎日この道を通って高校へ行ってるんですね~。何の変哲もない住宅街、って感じで、3日ぐらいで見飽きちゃいそうな風景です。……え? 何気にヒドイ事を言ってる? うふふ、ごめんなさ~い。


 ドッペル君は樹々君と莉央ちゃんから一定の距離を取りつつ、後を尾け続けています。なんか手慣れてますね。隠れる場所選びだとか、物陰から様子を伺う感じだとか。


 で、私達も同じようにドッペル君を尾行してるわけですが……これ、傍から見たらすごくシュールな光景じゃありません? まぁいいですけど。


 それにしても、平和ですね~。バカップルさん達はドッペル君に気付かず他愛無い話をしているみたいですし、それを見たドッペル君は時折舌打ちを漏らすだけです。


 けど、こう何と言うか、もう少し何かあってもいいんじゃないんですかね~。やっぱりトラブルが起きてこそ、人生は楽しくなると思いますので。あなたもそう思いません……うん? どうかしましたか?


 前を見ろ? ドッペル君に誰か近づいてる、ですか?


「やっほ~、樹々君」


 あ、ホントですね。女の子に話しかけられ、ドッペル君はバカップルさんからその子に視線を移しました。


「よう、毬夢。相変わらず能天気なツラしてんな」

「その喋り方……さては君、ドッペルの方ですな?」


「分かった上で話しかけてるんだろうが」

「あはは、まぁね~。今日もお勤めご苦労様でっす!」


 可愛らしく微笑む女の子に、ドッペル君はめんどくさげに髪を掻きむしります。


 ……え? あの子の事も知ってるんじゃないかって? 鋭いですね~。はい、知ってますよ? 


 名前は毬元まりもと毬夢まりむ。毬夢ちゃんです。蹴鞠好きの上流階級の血でも引いてそうな名前ですけど、そんな事実はありません。


 ウェーブがかった栗色のミドルヘアーが、小動物を思わせるあどけなさを振りまきながらさらさらと肩口へと流れてます。くりっとした可愛らしい瞳やふっくらとした桃色の唇を含め、全体的に幼げな風合いを醸し出してますね~。


 まぁ、一番の要因は高校生として明らかに起伏の少ない胸元のせいでしょうけど。そこさえ改善できれば文句なしの美少女、って感じですね~。


……はい? 胸がアレなのは私も一緒、ですって?


 うん、この尾行が終わったらちょおっとお姉さんとお話しましょう? 女性に面と向かってそんな言葉を吐くその捻くれた精神、叩き潰してあげます。

 

 絶対に。ぜったいに、にがしませんからね~? うふふ。

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