ぷろろーぐ その3

 さて、気を取り直してパカップルさんを観察してみましょう。


 女の子の方はブレザーを着崩し、赤面しつつも男の子の頬をつねる事は止めません。言動が少々男勝りですが、背中まで垂れた少し癖のある薄茶の髪と整った顔立ち、時折口から覗く可愛らしい八重歯、周りの女の子達と比べて一回り大きな胸元。


 総合的に見て美少女と呼んでも何の問題もありません。なんか悔しいですね……という本音はさておき、男の子に莉央と呼ばれてましたし、莉央ちゃん、って呼びましょう。


 で、男の子は痛がりながらもつねられる事を拒もうとしません。ていうか、柔和な笑みを浮かべてさえいますね。ドMなのでしょうか……いえ単純にお人好しで優しいだけでしょう、きっと。


 少し長い黒髪と中性的な顔立ち、それを丸縁の眼鏡が際立たせてます。確か、樹々、って呼ばれてましたね。その雰囲気同様に女の子っぽい名前です。けどさすがにちゃん付けは可哀想なので、樹々君と呼ぶ事にしましょう。


「ほ、ほら、バカな事言ってないで行くわよ。歩幅の広さは無限大なんだから!」

「もう言ってる事がホントにわけ分かんなくなってるよ莉央……」


 莉央ちゃんは焦りを誤魔化すように。樹々君は解放された頬をさすりながら。


 歩みを再開する2人。と、不審者さんがぽつりと呟きます。


「さぁて、今日も楽しい楽しいストーカーのお時間だ」


 うん、不審者さんですね、間違いなく。


 2人に気付かれないように細心の注意を払いながら、不審者さんも動き出しました。さて、私はどうしましょうか。


 ……うん、ちょっと面白そうですし、私も付いていっちゃいましょ~。




 あ、そうだ。ここで1つ謝りますね。


 ここまで好き勝手に話しておいてなんですが、私、ホントはあの不審者さんの事をよーく知ってるんです。


 どうして制服を着てるのか、どうして樹々君や莉央ちゃんを尾行してるのか。それも全部知ってます。知らないフリをして話すって、ちょっとドキドキして楽しいですね~。そう思いません?


 あ、悪い子じゃないんですよ? 彼なりの理由があって、行動してるんです。


 でも尾行は良くない事? うーん、確かにそうかもしれないですけど、あの子に関して言えば心配する事は全く無いんですよね~。


 それでも安心できない? じゃあ私と一緒にあの子達を追いかけちゃいます? きっと、あの子が悪い子じゃないって分かるはずですよ。


 え? せめてあの子が何者か教えろ、ですか?


 う~ん、仕方ないですね~。それなら1つ、とびっきりの情報を教えてあげます。


 あの子はですね、今尾行してる宇都宮樹々うつのみやじゅじゅ君のドッペルゲンガーなんです。驚きました? ねぇねぇ、驚きました~?




 ……え? そもそも〝私〟が誰かですって?  


 うふふ、そんな事どうでもいいじゃないですか。あなたが知りたいのは、樹々君のドッペルゲンガーについて、ですよね~。


 ほら、早く追いかけないと見失っちゃいます。行きましょう? ね?

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