ぷろろーぐ その2

 チャイムから10分くらい経ちましたね~。


 生徒の皆さんも、動きが落ち着いてきました。教室に残って雑談をする子もいれば、連れ立って学校を出て塾かどこかへ行く人もいます。


 それぞれの部活動で何やら話し合いが始まったり、掃除を終えた子達が一旦教室に戻ったり、まさしく放課後、って感じですね~。


 さてさて、問題の不審者さんですが。


「……………………」


 おやおや、今度は電柱にぴったりと張り付いています。ずぅっと学校の様子を伺ってますよ。もう完全にアウトです。


 ていうか、全く隠れ切れていません。ただでさえニット帽にマスクという風貌なので、道行く人達も怪訝な表情で不審者さんを見ています。


 それでも通報されたり取り押さえられたりしないのは、不審者さんが制服を着てるからでしょうか。制服は偉大です。だから軽々しくネットで売ってはいけませんよ? 女の子は特に。


 何にせよ、不審者さんのターゲットさんはまだ姿を現していない……、


「来やがった……!」


 いや、来たみたいです。タイミング、狙ってません? ねぇ?


 とにもかくにも、小声でぼそっと呟いた不審者さんが動きました。明らかに目の色も変わってます。さて、どんな子を狙ってるのでしょうか。


「ほら、とろとろ歩くなっつの樹々」

「ま、待ってよ莉央……」


 あら、男の子と女の子の2人のようです。どちらがターゲットなのでしょう。まさか、2人同時に尾行? レベル高いですね~。


「もぉ、今さらだけどどうして樹々はそんなに足遅いの? 女のあたしに負けてて恥ずかしいみたいなアレはないの? ねぇ」


 校門をくぐった女の子が、振り返りながら高校前の歩道で立ち止まります。


「うぅ、今さらだって分かってるなら言わないでよ」


 駆け足で追いついた男の子がそれに応えます。う~ん、なよっとしてますねぇ。ちょっと女々しいです。


「ねぇ、莉央。人にはその人に適した歩幅があるから、無理に急ぐのは良くないよ?」

「そんな理屈っぽいインテリな答えはいりません」


「インテリ……だったかな、今の。別に普通の事を言っただけなんだけ、痛い痛い、痛いって莉央!? なんでつねるの!!?」

「うっさいインテリ。悪かったわねバカでガサツな暴力女で」


「そこまで言ってないよ!? ぼ、僕は莉央のそういうところも全部含めて好きなの!」

「っ!?! ば、バカ樹々! ……声でかいっつの……っ」


 ……何でしょう、このバカップル……。


 そう思ったのは、きっと私だけじゃないですよね? 苦笑交じりに2人の脇を抜けていく子達も、みんなそう思っているはずです。


 顔を真っ赤にして狼狽える女の子を前に、男の子の方はメガネを指で押し上げてからポリポリと頭を掻きます。少し困ったように、そして幸せを噛みしめるように。


「ちっ、リア充メガネ野郎……! 昼間っからいちゃついてんじゃねぇよ」


 おや、不審者さんも同意見のようです。ちょっと殺意交じりなのは気にしません。

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