第56話 逃走と真実

 敵から逃げ切ることは出来たが、これからどうするか全く分からない。

 プランが無い。


 行く当てもなく、放浪者のように俺たちは街の真ん中を歩く。

 店の主が売り上げを少しでも上げようと俺達に声をかけるが、完全無視だ。


 今はそれどころではない。

「また、振出しか」

 金石の目は熱に浮かされたかのようにぼんやりと前方を見ている。

 視点が定まっていない。


「そうだな」

 手がかりが消えた。


 残ったのは、新品の地図だけ。


 大通りを抜けると、広場のような所に出た。

 そこから、細道が放射線状に続いていた。


 俺達はベンチを見つけてそこで一旦、休憩することにした。


「さっきのは、何だったんだ」

 彼はイライラしているみたいだ。

「あれは、恐らく、あの城の兵士だろうな」

「兵士?」

「ああ。それしか可能性が無い。鎧も身に付けていたしな。」


「良く見ているな。お前。この国は可笑しい。なぜ、獣人とかエルフとかいるんだ? 分からない。俺が教科書や本から学んだことなら、この世界には人間しかいないはずなんだがな。なぜだ?」

 彼の意見は最もだろう。


 もし、俺が見たあれが真実で、間違っていないとしたら……。

 俺の仮説が正しいとしたら……。

 一つのある真実に辿り着く。


 でも、でもそれは非常に受け入れがたい真実で、現実だ。

 だが、状況が、現状がそう物語っている。


「あれは、人造人間だよ。金石」

「人造…………人間?」

 あっけにとられたように、ポカンと口を開ける。


「そうだ。人造人間だ。恐らく、遺伝子を改造しているんだろうね。肉体改造だ。他にも色々改造しているのかもしれないけれど。でも、彼らが人工的に造られているというのは確かだよ。さっき、《千里眼》で見たからね。培養液の中にこの街で歩いているエルフとか獣人とかがいた」

「まさか……。デザイナーベイビーというやつか?」

「だろうね。それに加えて彼らは――――国だろうけど――――見た目も変形させている。生物史を塗り替えるようなことを彼らはしているんだよ」

 周囲を見渡してごく普通に道を歩いている獣人やエルフを凝視する。


 彼らはその事実を知らないだろう。

 平穏な日常を送っている。


 人間と同じように食べて寝て起きて――――。

 ――――幸と言うべきか。不幸と言うべきか。


 その時、公園の電柱に取り付けられているスピーカーから警報が鳴った。

『只今、地下都市土蜘蛛が進撃しているのを我々政府は確認いたしました。市民の皆さんは落ち着いて、地域指定のフィルターに向かってください。繰り返します――――』


 敵が攻めて来た。

「ホワイトくん。これはキーを取り戻すチャンスだよ。この戦争が起きている合間に彼女を奪うんだ。これから、この国は戦場になる。そうなれば、激しい戦闘になるだろう。恐らく、キーは彼らの切り札だ。だから――――」


「そこを狙うと」

「そういうことだ。彼女を戦場に出すという事は、どこかでスタンバイさせなければならないからね」

「なるほどな。たしかに。それは一理ある。よし。それをやってみよう」

 そうして、俺たちは最初捕まっていた場所に戻ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る