第15話 戦闘

「よし。行くぞ」

 フェアハンドにあるダイヤルを親指で調整して、魔術光線銃マジックビームライフルの放出魔力量を全開にする。


「いけ~~!! ぶっ放しちゃいなさい!!」

「うん!」

 引き金を引く――――。


 真紅の弾――――ではなく、真紅の光線だった。

 一線の矢がシャッターを貫通。

 勢いは収まらず、遠方の彼方へとその紅色の光を描いた。


 空に一本の矢が、漆黒の闇夜の中に血の色をした一線の光を照らした。

 そう――――。

 それは、血の色と全く同じだった。


「な、なんだ!?」

「き、奇襲だ。気を付けろ! 敵は何人か分からない上に人型魔装兵器ホムンクルスに乗っているんだぞ。油断をするな!」


 完全に崩壊したシャッターの隅から、ぞろぞろと機動接近型甲殻兵器ドライブアーマーが出てきた。

 一、二、三――――まだまだ出てくる。


 十体くらいか。

 2:10。

 これは流石にきつい。


 僕は、ほとんど実戦経験が無いから、実質1:10だ。

 いけるのか?


「いくわよ」

 時雨がそう叫んだかと思うと、いきなり敵に突っ込んで行った。


 ――――開戦。

 敵の機動接近型甲殻兵器ドライブアーマーは、多脚型スパイダー、双剣型クロスブレイドの二つの形態のみだった。


 流石に、十体まとめては彼女も相手には出来ない。

 二体、僕のところへ向かって来た。


 銃を構えて迎え撃つ。

 スコープを覗いて敵を狙う。

 が、敵は左右に動いて中々狙いが定まらない。


 このままではこっちに来てしまう。

「くそっ」

 舌打ちをする。


 ダイヤルを回して魔力量を減らす。

 連射すればどれかには当たるはずだ。


 落ち着け。

 慌てたら終わりだ。


 スコープの照準を再度敵に合わせる。

 観察をしろ。

 それはRPGでも敵を倒すために一番大切なことだろう。


 観察して、分析をしろ。

 敵は、二体だ。

 二体とも、多脚型スパイダーだ。

 今は浮遊魔術によって浮かび、滑走している。


 でも、動きに法則性はある。

 お互い、ぶつからないように左右に揺れながら動いているのだ。

 まるで、蜘蛛かアメンボのようだ。

 敵の本体には大砲が取り付けられている。

 そこから、電磁砲レールガンや熱放射光線レーザービーム、魔術光線マジックビームを放つのだろう。


 それに、脚とは別に二本の腕が伸びている。

 あれにどんな仕掛けがあるのか全く分からない以上、容易には近づけない。


 狙え。

 脚を狙え。


 胴体と足が接続されている関節部分に狙いを定める。

 いけっ!


 引き金を引く。

 ――――第一射。

 魔力弾は前方の右側の脚に掠った。

 これならいけるか?


 続けて第二射、第三射を放つ。

 第二射は掠りもせずに地面に着弾。

 小さなクレーターを作っただけだった。


 第三射は、脚に当たった。

 が、致命傷では無い。


「くそ。こうなったら……」

 近距離からの攻撃で決めるしかない。


 足のバネを使った跳躍。

 本体に取り付けられている砲弾がこちらを向く。


 なるほど。

 360度のどこからでも狙うことが出来るというわけか。

 でも――――。


 右手の人差し指でトリガーを引き続ける。

 連射モードだ。


 連弾――――。

 魔力弾が地面に降り注ぐ。


 威力は単発よりかは低くなるが、当たらないよりはましなはずだ。

「くそっ! なんなんだ!」

 敵の動きが止まった。


 今だ!!


 重力によって、地面に落ちる。

 敵に接近する。


 魔術光線銃マジックビームライフルを投げ捨て、光輝剣ライトニングソードを両手に握り、スイッチを入れる。

 ――――薔薇色に輝く刀身。

 ――――超高熱の人型魔装兵器ホムンクルスのための剣。


「おらぁ!!」

 大きく振りかぶって振り下ろす。


 真紅の刀身が煌め輝く。

 多脚型スパイダーの本体を真っ二つにした。

 コックピットの中の人間も、もう人の形を留めてはいないだろう。


「て、てめえ!!」

 怒りで二体目の多脚型スパイダーの砲弾が発射される。


 電磁砲レールガン――――。

 高熱を帯びた強力な青藤色の雷。


 反射的に後方へ跳ねる。

 片腕に一筋の放電が触れる。


「ぐっ……」

『右腕損傷。機能停止』


 なるほど。

 放射される本体だけではなく、周りに散る雷にも気を付けないといけないということか。


 でも、電磁砲レールガンは充電をするまでにかなりの時間を要するはずだ。

 それがSF定番の設定だ。

 焦って損したな。

 いや、僕が幸運だったと言うべきか。


「悪いな。仲間を殺したことは謝る。でも、僕には助けたい人がいるんだ。恨むなら、自分の運の悪さを恨んでくれ」

 水平斬りで狩る。


 機体は爆発に包まれ、煙火に呑み込まれていった。


 外に出る。

 すると、敵の姿はどこにもいない。

 そこにいるのは、佇む一体の人型魔装兵器ホムンクルスと、硝煙と焔に包まれたごみくずのみだ。


「凄いな。たった一人で八人も」

「そんなことないわ。これくらい『黒騎士』のパイロットとしてとうぜんよ。それよりも、あなたの方こそ大丈夫なの?」

 彼女の声は澆薄ぎょうはくな声色で言った。


「大丈夫って?」

「あなた、人を殺したのよ。もう、元の世界に戻ることはできない。人を一度殺したら、人はもうその道しか歩めなくなるのよ。心理的そうなるのか、社会的にそうなるのかは分からないけれどね」

 彼女の言葉はいつも冷たい。

 ドライアイスよりも冷たく、残酷だ。


「分かってる。でも、僕は人を殺したという感覚が無いんだ……。相手の顔が見えなかったからなのか分からないけれど。でも、胸がなぜか苦しいんだ」

 先ほどから針で刺されるような痛みを僕は感じていた。


「そう。それじゃ、貴方は救いがあるのかもしれないわね。あなた、これから地獄を見ることになるわ。誰の助けもない。ただ、一人で孤独な人生を歩むことになるわ。それでも、きっと、貴方なら生きていけるのでしょうね」

 僕は、彼女が言っている意味が分からなかった。


 どう意味で言っているのかさえも分からなかった。

 でも、これだけは分かる。

 この胸の苦しみを感じない自分ではいたくないと。

 そう思った。

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