第16話 潜入
(ナン・クローニャ視点)
「さて、後はこの中を探索するわよ。金石君。魔術光線銃マジックビームライフルをこの施設に向かって撃ちなさい。魔力全開で良いわよ」
煙火の中で、拡張デバイスを通して話しかける。
「なっ……何を!? でも、そんなことをしたらキーが……」
驚愕の声を上げる。
「大丈夫よ。彼女はそんなことでは死なないわ」
そう。
彼女――――『鍵』はそんなことでは死なない。
死ぬわけがないのだ。
私の脳裏の中には、彼女が『ゼウス』から脱走するときのことを思い返していた。
あの魔術の知識と量は、確かにこの世界を歪めてしまうものだ。
でも、上層部はそれ以外のことを懸念している様子でもあった。
私はそれを知りたい。
彼らが私に隠している事実を――――。
「彼女が死なないという事は、私が保証するわ」
「わ、分かりました」
彼の中に葛藤があるのだろう。
が、そんなものは私には関係の無いことだ。
私は、私の任務を全うするだけ。
標的の奪取のチャンスが来るまでひたすら待つだけよ。
魔術光線銃マジックビームライフルを構え、銃口を工場施設に向ける。
真紅の光線が解き放たれる。
光線は天を、空を裂き、施設を崩壊させた。
施設の中から人々の悲鳴が聞こえる。
崩れ落ちる建造物。
踏みつぶされる蟻のように崩壊していく。
建物の一部が、鉄筋が落下する。
砂煙を巻き上げ、衝撃音が鳴り響く。
が、魔力壁を張った人物は誰一人見つからない。
魔力探知システムMDSを使っても反応が無い。
こんなに派手にやらかしたのに魔力探知に引っかからないなんて可笑しい。
敵の何らかの罠か。
それとも、何らかの別の原因があるのか――――。
「このままコックピットを降りて突撃するわよ」
「あっ、う、うん」
レバーを下げ、コックピットを開ける。
オートマチック式の拳銃を二丁腰から取り出し、コックピットから降りてきた金石に渡す。
「ほら、これを使いなさい。今から攻め込むわよ」
タクティカルライトをつける。
それでも、静寂な闇夜には心もとない光だ。
脇を締める、銃口を上に向けた構えのまま前進する。
瓦礫の中を進む。
内部は、それこそ何もなかった。
黒く焼け爛れた鉄と人。
何か無いのか。
何か……。
前方に看板らしきものを見つけた。
右に行けば『生化学遺伝子研究室』。
左に行けば『超能力者開発室』。
に行けるらしい。
如何にも怪しい。
なんだ?
この『超能力者開発室』って。
仲間内からは、この国の人達は魔術とは異なる、超次元現象を起こすことが出来る力を持つ者がいると聞いたことがあるが、もしかして、この『超能力』とやらがそうなのか?
「超能力開発室?」
パートナーの方もそちらの方が気になるらしい。
「それじゃ、左に行ってみましょうか」
「うん」
薄暗い中にいると、無意識に神経が敏感になる。
これは長年の修練というものか。
これは悪習というべきか。
耳に聞こえるのは、二人だけの足音のみ。
それ以外は何も聞こえない。
視覚的な情報で頼りなのは、タクティカルライトの白光が映し出す景色のみ。
虫の囁きも。
水音も。
夜の鳥の囀りさえも。
全て無に帰す。
左右には先ほどまでは白かった壁が、左右に挟み込むようにして存在している。
静謐とした空気が流れ込む。
とそこへ、タクティカルライトの明かりが『超能力開発』という文字を映しだした。
「ここですね」
「ああ」
左側にいる彼の顔が良く見えない。
でも、声が彼の気持ちの高ぶりを示していた。
中は開けっ放しだった。
研究室と書いてあったので、何か実験器具のような物が沢山あると想像していたのだが、一見するとそのようなものは見当たらない。
あるのは、大画面のモニターと大量のパソコンと、さっきの魔術光線マジックビームで黒く炭と化した人間の死骸だけ。
「ここで、何か観察をしていたのかしらね」
「そうだね。でも、一体何を観察していたんだろう」
椅子に座って机にうつ伏せになっている死骸を退けてパソコンにスイッチを入れる。
が、電源が入らない。
やはり、先ほどの魔術光線マジックビームが原因か。
「だめね。どこのパソコンも動かないわ」
「こっちもですよ」
二人で部屋の中を歩く。
異臭がするのは、きっと炭と人の死骸の臭いだろう。
「ちょっと、時雨さん。来てください!」
金石の方へ駆け寄る。
モニター室の隣の部屋だ。
彼は手招きをして、
「これ。見て!」
タクティカルライトの明かりを彼の顔から、彼が指をさす方向へ――――地面へ向ける。
「これは……!!」
息を飲み、目を見張った。
タクティカルライトの光が映し出したのは、地下へと続く階段だった。
「こんなところに地下へと続く階段があっただなんて」
凝視する。
階段は石畳で出来ている。
ぱっと見たところ、罠も無さそうだ。
確信した。
この下に『鍵』がいると。
世界の運命を握る少女がいると。
「この下にキーがいるんだわ。行くわよ」
「うん」
私たちは、タクティカルライトの光を頼りにしながら、慎重に地下への階段を下りて行った。
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