第9話 新型の人型魔装兵器のパイロット

 ウチは彼に嘘を吐いた。

 でも、これは、必要な事だ。

 仕方の無い嘘なのだ。


 それに、嘘は吐き慣れている。

 今更、背徳感など微塵も感じない。


 コードネーム『ヴァンパイア』――。

 ウチのことだ。


 他国では『黒騎士』の名称で恐れられる人型魔装兵器ホムンクルスのパイロットだ。

 いつもなら、パイロットスーツを着るのだが……。

 今回はなんせ、パイロットスーツを着る暇が無かった。


 でも、何も問題は無い。

 ある程度の戦闘なら何とか切り抜ける。


 今日は、男子一人も一緒だけれど、何ら問題は無いだろう。

 バーを押す。


 機体のスイッチが入り、青色の電子光に包まれる。

 ここには、電子画面が360度映し出された。

 さらに、前方にはこのマンションからの景色が投影される。

「うわっ!? なんだこれ!?」

 彼は突如映し出された電子画面に驚倒きょうとうした。


「ここは、人型魔装兵器ホムンクルスの中よ。しばらくの間、動かずに、黙っておいてくれる?」

「あ、は、はい」

 彼は、どうしていいのか全く分からないといった感じだった。


 でも、それで良い。

 ウィィィィィンという中の核の起動音が聞こえ始めた。

 そろそろか。

「ナン・クローニャ。ファーヴニル行きます!!」


 人型魔装兵器ホムンクルス、1802号機ファヴニールは、周りに僅かな衝撃波を与え、漆黒なる大空へと舞い上がった。


「す、すげぇ!!」

「そうかな?」

 感嘆声を上げる金石の声を聞いて、疑問を持つ。


 何に対して、彼は感動しているのだろうと。

「貴方、何が凄いの?」

「全部だよ! こんな高いところから街を見下ろせるなんて思って無かったし、それに、こんなに速い乗り物で空を飛ぶなんて今まで想像もしていなかった!」

 ああ、そうか。

 彼は空から物を見るという体験をあまりしたことが無いのだ。


 モノレールや列車のようなものはある。

 が、地上から1キロメートルとかは体験したことがないのだろう。


 かなり上空へ上がらないといけないのだ。

 なんでって?

 そりゃ、ソニックブームとかあるからだよ。

 まぁ、科学都市であるパンドラではあまり関係ないと思うけど。

 それくらいの対策はしているはずだ。


 この国を往復するのに、1時間もかからない。

 確かに、この街の夜景は美しい。

 が、ウチにとって夜というものは、獲物が闊歩する場所でしかない。


 人を夢の世界へと引きずり下ろす場所でしかない。


 だから、街中のこの光がウチには淀んで見えてしまう。

 これが、裏の世界で生きてきた人間と、表の世界で生きてきた人間の違いなのかと思い知る。


「時雨! 前!」

 名前を呼ばれて、我に返った。


 前方に三体の人型魔装兵器ホムンクルスがいた。

 ――藍色の甲冑に、ライフルや槍、剣を片手に持っている。

 ――敵の人型魔装兵器ホムンクルスの黄金の瞳がウチの《黒騎士》を捉えた。


「3人程度か」

 ここは、第3区の境界線上だ。


 恐らく、ここにいるのは見張りだ。

 何かに警戒をしていたのか、それとも別の理由があったのかは知らないが・・・・。


「このウチに会ったのが運の尽きだったね!!」

 《黒騎士》は、藍色の兵に猛進して行った。

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