第10話 基地へ

 前方には三体の人型魔装兵器ホムンクルス。


「あれは、『パンドラ』の人型魔装兵器ホムンクルス。雑魚共が」


 中央の剣を持った敵の機兵が突撃してきた。

 猛進と言ってもいい。


 左方向に薙ぎ払う。

 一歩後退して避ける。


 続けて、右下へ切り下ろした剣を、切り返してきた。

 盾で防ぐ。


 ギィィン!!

 という金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。


 その間、敵の胴体はがら空きになる。

 その隙を彼女は――『黒騎士』は見逃さなかった。

 銀色の刀身が敵の人型魔装兵器ホムンクルスの胸部を貫いた。


『黒騎士』は大剣を引き抜き、すぐさまその機体から離れた。

 それを待っていたかのように、もう一気の敵がこちらへ突撃して来た。


 敵は槍を持っていた。

「てめぇぇぇぇ!!」

 渾身の一突き――だったのだろう。

 が、『黒騎士』は完全な奇襲だったにも関わらず、左手の盾で防いだ。


 凄い反射神経だ。


 大剣を薙ぎ払い、人型魔装兵器ホムンクルスの首が吹っ飛んだ。

 二体の巨人は爆炎に包まれた。

 その様は、彼岸花のようであった。


 刹那、真紅の光線が一閃を描く。


「うわぁ!!」

 一歩後退し、盾で光線の軌道を変える。


 前方には、銃を構えた人型魔装兵器ホムンクルスが一機。

 二機の巨人は対峙する。


 敵の銃口が『黒騎士』に向けられる。

「来るか」

 独り言を言う。

 張り詰めた、それでいて余裕のある声。


 ――第一射が放たれた。

 それを上に避ける。


 続けて、第二射、第三射が放たれる。

 紅蓮の高熱エネルギーが連射される。


 それを『黒騎士』――もとい、時雨は華麗な体捌きで避けながら、前方の人型魔装兵器ホムンクルスに向かって進撃して行く。


『黒騎士』は、真紅の光線を紙一重に回避する。

 とても、人技とは思えない。

 神業だ。

「く、く、く、来るなぁぁぁぁ!!」

 猛進して来る《化け物》に敵は打つ手が無かった。


 恐らく、敵は恐怖に囚われていた。

 連射するも、銃口が定まっていない。

「銃っていうのは当たらなければ意味が無いのよ」


『黒騎士』の大剣が敵の人型魔装兵器ホムンクルスの腹部を刈り取った。


 敵の人型魔装兵器ホムンクルスの腹に一筋の切れ込みが入り、敵の機体は真っ二つにぱっくりと割れた。


 直後、爆発し猛火に包まれる。


 これらの出来事は、一瞬の出来事でだった。

 彼女の技量は他のパイロットとは段違いに高かった。


 例えるなら、猛獣だ。

 ひたすらに敵の喉仏を掻き切り、噛み切り、引き裂く猛獣――。

 殺戮兵器――。


 三体の機体を一瞬にして葬った彼女の後ろ姿は、凛としていて、かっこよく思えた。

「それじゃ、本陣に向かうわよ」

「あ、う、うん!!」


 全力で右足のアクセルを踏み込む。

「むぐっ!?」

 一気にGがかかる。


『黒騎士』の目から映し出される地上の映像を観る。

 工場ばかり――。

 第3区一帯は、兵器を製造する工場や機械工場がひしめき合う言わば――工場地帯なのだ。


「見えてきたわ。あそこに《鍵》はいるはずよ」

「キー……」

 彼女の名前が言葉として零れ落ちる。


 彼女が何者かだなんて僕にはどうでもいい。

 けれど、女の子人助けることが出来ない男には絶対になりたくない!

 心の中で炎が燃える。


「ここじゃなんだから、少し離れた所に置くわよ」

「うん」

 僕は、この時雨という少女がどういう奴なのか分からないし、知らない。


 けれど、今の時点ではキーを助けるという協働関係にある。

 誰かを助ける理由なんてなんでもいい。

 僕はそこに苦しんでいる人がいるのなら、助けたい、救いたい。


 それが、僕にとっての正義だし、ヒーローの形だ。

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