第7話 もう1人の同居人

 僕は咄嗟に時雨の手を握って、走り出した。


 後ろからは先程の男が追いかけて来ていた。

 ダメだ。

 このままでは捕まってしまう。


 逃げなくては。

 逃げなくちゃ。


 歩く人々の間を通り抜ける。

 小さな路地が右手に見えた。


 あそこだ。

「時雨さん。こっちだ」

「あっ、うん」

 彼女の手を引く。


 物陰に身を潜める。

 逃げてきた方向を凝視する。

「どうやら、もうあいつは来ていないようだな。それにしても、なんだったんだあいつらは」

 どこかへ行ってしまったようだ。


 バレなくて済んだ。

 でも、謎は沢山残る。

 あいつらは誰なのか。


 何らかの組織なのか。

 だとしたらどのような組織なのか。


「でも、今そんなこと考えても仕方がねぇよな。時雨、済まないな。こんなことに巻き込んでしまって」

「いや、大丈夫だよ。でも、なんかあったの? あの女の子は……」

「あ、ああ。あれは……」

 言ってもいいだろうか?


 いや、いけない。

「いや、なんでもない。それより、僕はもう帰るからな」

 そう言って帰ろうと、握っていた手を振りほどこうとする。

 が、彼女は離してくれない。


「おい、離してくれ。僕は夕飯を作らないといけないんだ」

「いや。あの女の子のことを話すまで絶対に解かない」

 こいつ、意外に力強いぞ。


「はぁ。仕方がねぇな」

 連れて行くまで離してくれないと悟って、彼女を僕の家まで連れていくことにした。


「でも、いいか。約束して欲しいことがある」

「なんでもするわ!」

 即答だな、おい。


「僕の家で見た事、聞いた事全てを外で話すな。漏らすな。この条件を約束するのなら良いぞ」

「するわ! 絶対に約束する!」

「分かった」

 変に付きまとわれても迷惑だしな。


 ―――――――――――


「ただいま〜」

「まー」

 本当に連れてきてしまった。


「ケント、その人……誰?」

 だよなぁ。

 そりゃ、そうなるよな。


「この人か? この人は僕のクラスメイトだ」

「今日からここに住むことになります。時雨百合子と言います。よろしくね!」

 ん?

 今、こいつなんて言った?


「おい、お前……今なんて……」

「今日から、私もここに住むことにしたから」

「は、はぁぁぁぁぁ!?」


 ふ、ふざけんな!!


「そんな許すと思うか? ここは僕の部屋だ! 二人でもきついんだぞ! 寝るところだって、今の状態できついんだよ! てか、自分の家に戻れ! バカヤロー!」

 怒り奮闘な僕に対して、時雨は淡々と話す。

「仕方がないじゃない。私、帰る場所が無いのよ。実は、両親が喧嘩してて……」

 両目に手を当ててすすり泣き始めた。


 ああ、これ一番面倒臭いやつだ。

 心の中で嘆息する。


「分かった。分かったから。隣の部屋に布団があるからそれで寝ろ。僕は、寝袋で寝ることにする」

「ふふふ。ありがとう」


 というわけで、僕はキー、転校生の時雨百合子の二人と同居することになったのだった。

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