エンディング3、挿し木の花(ショートエンド)
先程まで彼女の母親が座っていたパイプ椅子に腰かける。
随分と細くなった彼女の腕に伸びた何本ものチューブが、深刻な病状を物語っている。
右手に触れると、彼女は僅かに身じろいだ。
しかしまだ起きる気配はない。
優しい彼女が、どうしてこんな目に合わなければいけないのか──代われるものなら代わってやりたい。
俺は唇を噛みしめた。
原因不明の難病、としか聞かされておらず、俺は病の詳細について何も知らされていない。
それが本人たっての希望だった。
聞いた所で何が変わる訳でもなく、俺はただ彼女に寄り添う事しか出来ない。
「香保子……」
かつて美しく咲いていたピンクのガーベラ達は、ほとんど枯れ落ちていた。
このまま彼女の命共々散ってしまったら……なんて縁起でも無い事を考えてしまう。
いや、ちょっと待てよ。
俺は自分の頭上に手をやる。
ガサガサと生い茂ったランタナが音を立てた。
以前調べた時、この花は生命力が強いと書いてあった気がする。
思い付いたと同時に、俺は「おらぁっ」とランタナの枝を一本へし折った。
これだけ茂ってるんだ、少し位減ったって今更俺の健康は揺るがない。
「香保子、もし痛かったらすまん」
まだ眠っている彼女の頭頂部目掛けて、俺はランタナの花が咲いた枝をブスリと突き刺した。
その二週間後、彼女は退院した。
もはや手の施しようが無いとまで言われていた彼女が、奇跡的な回復力を見せたのだ。
彼女も彼女の両親も、勿論俺も、皆泣いて喜んだ。
それから更に数週間が経過した──
「香保子、次の休み、どこか行かないか?」
「……あ~、ムリムリ。次の休みは友達とランチ行くからさ」
「え、また?」
すっかり元気になった彼女だったが、以前とはどこか様子が違う。
あの日以来、まるで別人のように変わってしまった彼女に、俺は戸惑ってばかりだった。
「つーか、ダルいし、アタシ今日はもう帰るわ、じゃね~」
ヒラヒラと片手を振り、俺の事など見向きもしないで彼女は去っていく。
彼女の頭の上に生い茂るランタナの花を見つめながら、俺は違う花を差せば良かったと後悔した。
(ランタナの花言葉、心変わり)
(別名、七変化)
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