第3話 断たれた右腕 その3
いつから気づいていたか?と聞かれれば最初からである。なぜなら彼女は人間に化けているだけで、顔立ちに関しては全く変装をしていなかったからだ。
「いやぁ酒呑ちゃん、よく僕の顔を覚えてたねぇ」
「戦友であり親友でもある者の顔ですよ?1000年程度のブランクで忘れるわけありません」
茨木童子はニヤニヤと笑う。
「茨木、うちの従業員を襲ったあの腕は何です?まだ隠していることがあるのでしょう?話してください」
「鋭いね。わかった、全て話すよ。実はあの祠の中にあるのは僕の右腕だけじゃないんだ」
「やはりですか。あの腕からは明確な意思を感じました。どうやら、彼方の腕の妖力を操っている者がいるようですね」
「そういうこと」
「で、それは誰です?」
「渡辺綱、僕の腕を断った男さ」
「……!? それは……!?」
「信じられないだろう? ただの人間が1000年も生き続けてるなんてさ。でも可能なんだ……それだけの力が得られればね」
「長い間喰らい続けた京都の人々の魂ですか……」
「察しがいいね。そうさ、綱は人の魂をエネルギーにして今まで生きてきた。しかし、見てわかる通り、奴はその膨大な力を制御できなくなってきているみたい」
通常の人間なら1000年も生きることは出来ない。それは肉体だけではなく精神も同じだ。だんだんと『生きたい』という自我が暴走して、いたずらに人を襲っては過剰にエネルギーを摂取しているということか。
「それはまたやっかいですね」
「だから君達祓い屋を呼んだのさ」
「で、これからどうするのです?策はあるのですか?」
「祠の闇空間に殴り込んみに行く!そんでもって、綱のやつを退治する!」
「相変わらずアバウトな作戦ですね……しかし、いいでしょう」
「よぉし!」
茨木が口を開けてまっすぐに上を向くと、口から太刀の柄が姿を現した。彼女はそれを掴んで少しづつ引き抜いていく。
「え、茨木、貴女いつの間にそんな曲芸を!?」
あまりにも唐突で異様なその動きに思わず引いてしまう。
茨木はとうとう太刀を全て引き抜いた。
青白く輝く刀身の長い太刀である。一体この長さの刃物が彼女の身体のどこに隠されていたと言うのか。
「これ長くて邪魔だからさ、こうやって身体の中にしまってるってわけ」
それはどういう理屈だ?
「ともかく行きますか。早くしないと3人が食われてしまいます」
「わかってるよ、行こう!」
私達は祠の扉を開き、暗黒空間に飛び込む。
中は闇の道になっていて、しばらく進むと出口に着いた。
道から出ると、そこは周りを岩に囲まれた出口のない広い空間になっていた。
所々に柱のようなロウソクがたっている。
「なるほど、祠の中に別空間がある訳ではなく、この出口のない洞窟に霊道を使って繋げていたということですか」
一見密閉された空間に見えるが、ロウソクには火がついているし、息もできるので酸素はあるらしい。恐らく、霊道を使って外気を取り込んでいるのだろう。
「綱は1000年もここで生きてたわけだね。ほら、あそこ」
茨木が指をさした先には、何か儀式をするための大きな祭壇が設けられていた。祭壇の周りには白骨死体が転がっている。
祭壇の上には先程捕らわれた3人が寝かせられていた。
「皆!」
私は従業員達に駆け寄る。
声をかけると彼らは次々に目を覚ました。
「うう、サツキさん……すみません、私が迂闊だったばっかりに……」
「いえ、大丈夫ですよ杉原。逢魔も鬼門も無事です」
幸いにも、3人とも心身共に以上はなかった。
「サツキさん、あれを……あいつが俺たちをここに引きずり込んだやつです」
「ええ、分かっていますよ。先程から凄まじい妖気を感じています」
鬼門が指示した方向には奴がいた。
全身が妖気に包まれていて、シルエットが朧気にしか見えない。
「戦闘態勢をとってください。敵を討ちます」
私の指示で杉原が大斧を構え、鬼門が鎌を変型させ、逢魔が狐を呼び出した。
「敵はわかっていますね?」
3人はコクリと頷く。
「
3人は一斉に襲いかかる。しかしそれは目の前の妖気を纏った者にではなくて、茨木童子へだった。
鬼門が切り裂き、杉原が断ち、逢魔の指示で九尾が火炎を浴びせた。
「ぐおあああっ!!」
茨木は苦しみ悶える。
「酒呑ちゃん、この3人……操られているんじゃないのか? 正気とは思えない……!」
「いいえ、正気ですよ。操られているだなんてとんでもない。なぜなら敵は貴方なのですから」
「何を……!?」
「しらばっくれても無駄です。いつまで私の親友の皮を被っているつもりです? 渡辺綱」
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