第40話 AI(愛)の冒険者登録 (中編)

みすぼらしい少年と4人美女と美少女


彼らがギルドに現れた途端


あたりは騒然となる


勇樹たちは一躍有名になっていた




緑石竜を使い魔とし


『白銀の魔狼』を一撃で無力化する


そして『氷の女神』をまるで初心な少女の様に手懐ける


「ヤツは只者ではない!」と




その少年がギルドのカウンターに立つ


「冒険者ギルドへようこそ」


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


ギルドの受付嬢は海千山千の冒険者を相手にする接客のプロだ


そんなプロ中のプロがお決まりのセリフをかみそうになるほど緊張していた


目の前の少年は笑顔を浮かべて


「冒険者の登録をお願いします」


一見すると無害な


そしてみすぼらしい少年




「勇樹にはこの街で手に入る最高の装備を用意するわ」


愛が気合を入れて、そう申し出たが


「僕はもうすでに愛とナノさんに最高の装備を貰っているよ」


超生命体の身体


彼にとってこれ以上の装備は思いつかない


必要だとも思わない


「ボロボロになっちゃったけど」


「この服は思い入れがあるからね」




「だがよ 見た目で他の冒険者に舐められるぜ?」


ナノの言う事はもっともだった


得てして、冒険者は強く見せようと苦心する


すべては他者からの評価を上げるため


「確かに元の世界では」


「軟弱にみられて辛い思いもしたなぁ」


元の世界でも彼なりに頑張った


だがそれが評価されることは無かった


だがそれが報われる時は


とうとう来なかった




「でもね、今はどう見られようと」


「どう言われようと全然辛くないよ」


「だって大切なみんなが僕の事を認めてくれているからね」


自分なりに努力してきた


そして、それを仲間に認めてもらえたのだ


勇樹は初めて自分を誇らしく思えた




「まぁ あれだ 勇樹の事をとやかく言う奴がいたら」


「俺がぶっ飛ばしてやるから心配すんな!」


「それは頼もしいな でもあんまり暴力はだめだよ?」


シャドウボクシングを始めたナノさん


顔が真っ赤だ


彼女は『大切なみんな』の言葉の中には


自分も含まれている事が感じられて嬉しかったのだ


口が裂けても言えない


言わないが




そう言うわけで勇樹は相変わらず


この世界に来て最初に手に入れたボロボロの衣服のままだ


「愛様とナノさまには最上級ランクで登録するよう」


「ギルドマスターから指示が出ているのですが」




この街でも最強の実力を持つ者と訊かれれば


誰もが彼女たちの名前を口にするだろう


ギルドにとって、彼女たちは是が非でも取り込んでおきたい存在


初回登録時から最上級ランクで登録など前代未聞の事例である


だがもし彼女たちがそれを受け入れても


難癖をつける冒険者はこの街に存在しない


そして冒険者を志す者ならば


その申し出を断る者はいない


はずだった




「私とナノも勇樹と一緒のランクでないなら登録しないわ」


それは絶対条件であり


それが覆ることはあり得ないと言った


確固たる口調




「それとよぉ ルナとリーウも」


「使い魔としてではなく冒険者として登録しろよな?」


「でないと この国ともおさらばだな」


ナノの場合は拒否と言うよりも脅迫じみていた




「わ、私には判断する権限がありません」


困り果てる受付嬢


「まぁ そんなにうちの受付嬢をいじめないで上げて下さい」


「ギルドマスター!?」


長い耳に整った相貌


どうやらエルフ族のようだ


排他的なエルフ族がギルドマスターになることは非常に稀である


だが、彼は冒険者からギルドマスターの地位を獲得するほどの


能力の高さを持っている


エルフ流に言えば優雅さに欠けるが


所謂、たたき上げと言うやつだ


受付嬢が驚愕するのも無理はなかった


ギルドの長である彼が


一介の冒険者の登録の応対をするなど


これまた前代未聞であるからだ




「愛様もルナ様も最低ランクから始めてもらいましょう」


「ランクなど」


「彼女達であればあっという間に上がってしまうでしょうしね」


ギルドマスターが


こちらにウインクしているが


嫌味の無い


むしろ愛嬌がある仕草


彼がギルドマスターたる理由の一つなのかもしれない




「しかし、流石に使い魔の件は難しいですね」


ギルドマスターが難色を占めるたとき


「彼女たちは使い魔ではありません」


「僕たちの家族なんです」


「万が一彼女たちに何か問題があれば」


「すべて僕が責任を負います」


「無理なお願いだとは承知しています」


「それでも何とかお願いできないでしょうか?」


勇樹は深く頭を下げて


ギルドマスターに嘆願する


これには愛とナノも驚いた


彼がここまで積極的に自分の意見を言うのは珍しい






「勇樹様 私はあなたと共に居られるのであれば」


「使い魔の身で十分です」


気位の高い竜族だとはにわかに信じられないリーウの発言


「私もお姉さまとお兄様といられるなら何と呼ばれても気にしません」


孤高の魔物である『白銀の魔狼』のルナも納得していると言うが




「いや、それではだめだ」


「君たちは大切な家族なんだ」


「僕は、そこだけはどうしても譲れない」


「我儘を言ってごめんね」


「でも、ルナとリーウも冒険者として登録できないのなら」


「ギルドに入るのは諦めます」


勇樹にとって異世界で冒険者になるのが夢だった


それを棒に振っても構わないと言わしめる


彼の一言一句が本心である証だ




ギルドマスターは勇樹の目をじっと見つめている


彼の覚悟を程を見ているのだろう


そして彼もその言葉が本心であると確信した


もし彼の嘆願を断れば


どのような妥協案を提示しても


全員がギルドに入る事はないだろうと




「勇樹様の覚悟のほどよく分かりました」


「ルナ様、リーウ様も冒険者として登録させて頂きます」


「ただし万が一の際は」


「勇樹様が全責任を取る旨を契約書に記載し署名していただきます」


「ありがとうございます!」


強力な魔物ほど一度問題が起これば大惨事となる可能性がある


その全ての責任を負う


並大抵の覚悟ではない


だが勇樹は覚悟などしていなかった


なぜなら彼女たちに危険性など一度も感じたことが無いのだ


そして家族である彼女たちを信じている


疑う余地は微塵もない




おそらく本部から処分を受ける事になるだろう


だがギルドマスターには確信があったのだ


彼らが冒険者になれば必ず、ギルドだけでなくこの街


いやこの国にとって役立つ存在となるはずだと



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