第34話 AI(愛)の再会 3/5

勇樹の動きを捉えていたのは3人


愛とナノ


そしてかろうじて『武王』


あれだけの速度で動いたにもかかわらず


勇樹が踏みしめたはずの地面には足跡ひとつない




勇樹は浮いていたのだ地面からすれすれの高さで


宙に浮けば踏ん張りがきかないはず


だが、ルナの渾身の一撃を微動だにせず受け止めた


(『気』の力でこれ程の事が!? 信じられん!)


彼が『武王』たらしめているもの


それは卓越した『気功法』の力にあった


その武王ですら先ほどの出来事は


奇跡としか思えない所業だった




(制限を解除したの?)


ナノへと振り返る愛


だが彼女は首を振った


それは勇気が力の制限をかけたまま


今の戦闘を行ったという事




自分を置き去りにし(たと思いこんでいる)


武者修行に出た勇樹


多少強くなって帰ってくる


愛ですらそう思っていた




それも致し方のない事


おそらく勇樹は愛の予想通り


多少強くなった程度で返ってくるはずだった


あの場所に行っていなければ




武者修行最後の地として


勇樹と女神アスタルテは大陸の最西端の村に赴いた


その村は


そこに行けば、どんな夢でも叶う


高僧が経典を求めてたどり着いた場所


などでは無かった


一見すれば、ごく普通の村


だが勇樹たちはそこで出会ったのだ


最強の存在に




村について早々刺客に囲まれた


勇樹たちは待ち伏せを受けたのだ


しかも相手は手練れの刺客が50人


(流石に力を開放するしかないか?)


力を開放したままでの撃退は流石に厳しかった


武者修行の最中


封印した力を開放したことは一度もなかった


自分が倒れればアスタルテに被害が及ぶ


女神である彼女が傷つけられるとは思わないが


自分が意固地になったせいで、彼女に刺客の手が及ぶことを


勇樹は良しとしなかった


コズミック・ジェネレータをフル稼働に


バトルモードに移行する


その直前に彼は現れた




「二人相手に大の男が寄ってたかって相手をしようとは」


「気に入らんな」


「しかも一人はお嬢ちゃんじゃねぇか?」


「ますます持って気に入らん!」


「どおれワシが助太刀してやろう」


「ご迷惑が掛かります 僕が何とかしますので」


勇樹は現れた男に被害が及ぶのを避けたかった


見れば40代後半


よれよれの衣服


暗記の類を忍ばせている様子はない


武器らしきものは持っていない


つまりは無手


酒瓶を片手に一口飲み干し


「なあに ちょうど暇を持て余していたところだ」


「それにワシがこの程度の輩にやられはせんしのう」


そう言うと男の周囲で何かが弾けた




勇樹がそう思った刹那すべてが終わっていた


「なんじゃ? 準備運動にもならなんだか」


(全く見えなかった・・・)


気が付けば一瞬で全員が地面に倒れこんでいた


「何をしたんですか? 全く分かりませんでした」


「おお? ちょっと早すぎたか?」


「まぁやった事と言えば二つだけじゃ」


「全員下を脱がして」


「『気』を乱して気絶させてやった」


「こういう奴らは痛めつけるより」 


「こうやって恥をかかしてやる方が堪えるみたいでのう」


相手は一流と言っていい腕前を持つ刺客


当然彼らには己の実力に対する自負がある


彼らが自分たちの醜態に気が付いた時の事を考えると


勇樹には苦笑いするしかなかった


それよりも気になることがある




「『気』を使ったんですか?」


勇樹は興味津々だった


アスタルテは全く興味が無さそうだ


刺客たちが下半身丸出しな光景に顔をしかめていた


元の世界でも『気功法』を取り上げた番組を


テレビで見たことがあるが


実際に使っているのを見たのは初めてだった




男は目の前の少年に感心していた


(今の光景を見て全く動じていないとは)


(大した胆力)


大抵のものは腰を抜かし


自分を恐れて早々に立ち去って行く


(しかも変わった身体をしておるな)


男は、一目で勇樹の身体が普通ではない事を見抜いた


そして提案してくる


「何なら少し手ほどきしてやろうか?」


「ぜひお願いします!」


『気』を操ることが出来れば飛躍的に強くなれる


先ほどの光景を見て確信していた


願ってもない申し出だった


だが


「それには一つ条件がある」


「条件ですか?」




この時、勇樹は決断を迫られることになる



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