第33話 AI(愛)の再会 2/5
ギルドが所有する訓練場に集まった一同
冒険者たちも興味津々と言った面持ちで様子をうかがっている
なにせ伝説の魔物『白銀の魔狼』が戦う姿を拝めるのだ
日々戦いに明け暮れる猛者たちでもなかなかお目にかかれない
「せっかく『白銀の魔狼』が戦う姿を拝めるってのに」
「相手があれではなぁ」
ほとんどの者が勝負は一瞬でつくと高を括っていた
(何を馬鹿な事を言っているのだ)
(どちらが化け物だと思っている!?)
勇樹の姿を凝視する男が一人
引き締まった見事な体格
それは相当な鍛錬を積んでいる証
そして武器を帯びていない
それは彼が武闘家であるという事
『武王』
冒険者は尊敬の念を込めて彼をそう呼んでいた
そして彼もその二つ名を自負していた
(何が『武王』か!?)
(そんな二つ名を恥ずかしげもなく名乗っていたとは)
(自分が情けない!)
武王をしてそう言わしめた人物
それが勇樹だとは武王本人以外居なかった
『白銀の魔狼』
数百年を生きる強力な魔物
そのルナを前に勇樹の心は落ち着いていた
さざ波すら立っていない
武者修行の旅に出る前であれば、足元にも及ばなかったであろう
「無手だと!? この私を愚弄しているのか!」
「僕は愛の家族を侮辱なんてしないよ」
「だから本来の君の姿で相手をしてくれるかい?」
「今の言葉後悔するなよ?」
ルナは少女から
本来の姿『白銀の魔狼』へと姿を変える
今までいろんな人族と戦った
皆が皆、強力な武具を身に纏っていた
それに比べ
今、目の前にいる男は無防備過ぎるにも程があった
ボロボロになった衣服
皮鎧さえ身に着けていない
そして武器さえも手にしていない
ルナは自分が舐められているのだと思った
「分かる分かる 私も最初は舐められたれたものだと勘違いしたものだ」
勇樹との勝負を思い出すリーウ
龍族の中でも
如何に成龍になったばかりとは言え
人族が
たった一人で
鎧も纏わず
無手で相手のできる相手ではない
「魔狼よ 勇樹様を人族と思い油断するなよ」
「一撃で終わるぞ?」
なにせ自分は一撃で意識を失ったのだから
その強さの理由を後で思い知った
彼の師匠の元で共に修行をする羽目になった時に
(あの修行だけは二度とごめんだ)
一瞬でも油断すれば死ぬ
最強の生物にして
そう言わしめるほどの過酷さだったのだ
その苦行ともいえる鍛錬に
勇樹は嬉々として取り組んでいた
彼女が彼の使い魔になろうと決めたのは
その姿を見た時だった
この者に一生ついて行こうと
武者修行とやらで強くなったと勘違いしている愚か者
少し撫でてやるつもりでいた
その愚か者が初めてが構えを取る
ドンッ!
大気が振動し
ルナは目を見張る
「ふふふ 勇樹様が巨人にでもなったように見えたのだろう?」
「分かる分かる」
(この龍族うるさい うっ!?)
そう思った刹那
勇樹の姿が掻き消える
正確には、彼の早すぎ
動きを追うことが出来ずに見失った
「これで終わりだと面白くないよね?」
耳元で優しく囁く声がする
全身が凍り付いた
ルナにはそれが死神の声に聞こえた
何故なら
声を聴くまで気配さえ感じ取れなかったからだ
それは
仕合でなければ
本当の戦いであれば
死を意味するからだ
反射的に声の方向に腕を振る
ルナの剛腕が相手を捉えた
(しまった加減をしていなかった)
少し痛い目を見てもらう程度のつもりであった
無意識とは言え全力で腕を振るってしまった
脆弱な体がが勢いよく吹き飛び
肉片と化す様を想像し後悔した
借りにも己が主人の知己である
それを殺してしまったのだ
主人の落胆する姿を想像して絶望にかられる
だがそれは杞憂に終わった
(微動だにしない・・・だと!?)
まるで大地に根を張った大木を殴ったかのように
そして
(何だこの硬さは!?)
まるで鋼の塊を殴ったようだった
吹き飛ばすどころではない
自身の腕がしびれてしまった
振りむけば勇気が悠然と立っていた
手を伸ばし無造作にルナの手を受け止めている
余りにも不自然過ぎて
わが目を疑った程だ
「何をした!?」
「見たとおり君の腕を受け止めているんだよ」
「どうやって!?」
「君は僕が無防備に見えてるんだね」
「でも僕は武装しているんだよ」
「『気』と言う鎧でね」
相手が巨人にでもなったように
幻視させるほどの強力な『気』
それが勇樹の鎧であり
「剣ももっているよ」
左手はルナの腕を受け止めている
空いた方の右手を無造作に上げる
「それを見たら、死んだと思うだろう?」
「分かる 分かる」
リーウがしたり顔で頷いている
しかし彼女の言葉通りだった
右手が放つ強力な力
本能が告げていた
あれは到底抗えない
「ルナ お相手してくれてありがとう」
まるでダンスの相手にお礼を言うように囁く
「そしておやすみ」
そして、その右手でルナを撫でた
赤子を優しくあやす様に
『白銀の魔狼』はそのひと撫でで
意識を刈り取られた
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