第32話 AI(愛)の再会 1/5

勇樹たちが戻ってくると連絡があった


正確には定期的にメールが届いていたが


愛は頑として見ようとしなかった


ナノに確認させておいて


さり気なく内容は聴きだしてはいたが




その日から、愛はそわそわし始めた


誰に見せるためなのか?


服を新調したり


新調した服に合う装飾品を血眼になって探したり


髪型はおかしくないか?


靴も新調した方が良いか?


何度もナノに聞いてくる


(まったく どれだけ楽しみにしてるんだっちゅうの!)




そして遂に勇樹が街へ戻ってきた


その姿は刺客との死闘でボロボロだった


対照的に、女神であるアスタルテは沁みひとつない


正に聖女のような美しさだった




愛はさり気なく勇気とすれ違うように通りを歩いていた


あくまでもさりげなくだ


「やあ愛 久しぶりだね」


(本当に久しぶりね心配したんだから!)


「何しに帰ってきたのかしら?」


「修行がひと段落してね」


「急いで戻って来たんだ」


(私会いたくて仕方なかったのよ?)


「どの面さげてそんな事が言えるの?」


「こっちは顔も見たくないわ!」


何故だろう思った事とは正反対の言葉が次々に出てきてしまう


あふれ出してくる感情が彼女の言動を変えてしまう




「さっきから我が主に失礼千万!」


「勇樹様 この女を排除しても構いませんか?」


見慣れない姿がそこにあった


深紅のチャイナドレスに似た可憐な装いがよく似合う


エメラルドのように輝く髪、そして瞳を持つ美少女だった


「リーウ いいんだよ彼女は僕の家族みたいな大切な人だから」


(何この女! まさか勇樹の恋人!?)


「あなたこそ 名乗りもしないで失礼ね」


「私は龍族のリーウ」


「勇樹様の使い魔」


「まぁ 将来の妻と言っても過言ではありませんが?」


(何この挑発的な態度! 将来の妻ですって!?)


「リーウ それはさすがに過言だよ」




「お前は愛お姉さまの何だ?」


勇樹に食って掛かる者が一人


流れるような白銀の髪に瞳


天女のようなそれでいて煽情的な衣を纏っている


こちらもリーウに負けず劣らず美少女だ


「僕は勇樹」


「愛は僕にとって家族みたいに大切な存在さ」


少女の問いに答えながらふと疑問に思う


(僕は愛にとって何なんだろう?)


彼女も自分を家族だと思っていてくれるなら嬉しいと思う




「君は誰なんだい?」


「私は愛お姉さまの使い魔 ルナ」


「お前が私の大切な愛様に相応しいか確かめてやる」


「勝負しろ!」


「相変わらずにぎやかだねナノ」


もう一人の大切な存在に話しかける


「久しぶりだな勇樹」 


「お陰で、おめぇが居ねえ間も退屈しなかったぜ」


ぶっきらぼうな口調が懐かしく


そして愛おしい




(ああ 僕は帰ってきたんだな)


大切な家族の元へ


元の世界で家族と呼べる人たちは居た


だが実の両親にさえ


自分は興味を持ってもらえなかった


愛情を注いでもらえなかった


だからこの賑やかな状況さえ


勇樹には幸せに思える




「人族の分際で、私を無視するな!」


「ごめんよ悪気はないんだ」


「こんなに賑やかなのには慣れて無くて」


「待ちなさいルナ」


愛が止めに入ると思いきや


「勝負するなら場所を変えましょう」


「勇樹 どのくらい強くなったのか見せてもらおうかしら?」


(修行とか言っておきながら 女をはべらせるなんて許さない!)


相変わらず勇樹のこととなるとポンコツになる愛


お陰で彼女の使い魔と勝負する羽目になる




だがそれこそ好都合だ


「じゃあ ルナちゃん少しだけ相手をしてもらおうかな?」


長い間、大事な人を待たせてしまった


その間に多少なりとも強くなったと自負もあった


そして自分がどれだけ努力したかを見せる機会がやって来た


断る理由はない


強力な魔物の威圧を涼しげに受け流す




ルナの挑戦をにこやかに受ける勇樹だった



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