第31話 AI(愛)の使い魔 (後編)

勇樹たちの旅は日を追うごとに過酷になって行った


礼拝堂爆破


警告に少し壊す程度で終わらせるつもりが、完全破壊してしまった


この事が星光教会の逆鱗に触れたようだ


その日を境に刺客たちに狙われるようになったのだ




各地の道場を巡る


学ぶのは基本の型のみ


以前のように教えてもらえないからではない


「基本の型を教えてください」


今では勇樹の方からそう願うようになっていたからだ


今までの鍛錬の中で、感じていたものが確信に変わったのだ


「基本の中に全てがある」




女神の力を取り戻したアスタルテの治癒の力は広場に居る者全てを癒す程の効果を現し『癒しの聖女』の名は瞬く間に各地に広まっていく


アスタルテの知名度が上がるほど星光教会の反感は増し


彼らが雇った刺客たちも過激さを増した


人目をはばかる事も厭わなくなった


街への道中は、さる事ながら


挙句、町の広場でアスタルテが治療行為をする場にまで現れだしたのだ


何時刺客が現れても対処できるよう


勇気も広場で鍛錬をすることにした




何時ものように鍛錬を始める


今までに様々な型を習得してきた


その中に新しい型を加え


それを自然な流れとなるように


仮想の相手との仕合の中で


無数の組み合わせとして


つなぎ合わせていく


勇樹の鍛錬はさながら剣舞のような優雅さを帯び始めていた


広場に集まる者の中には、彼の鍛錬を楽しみにする者もいる程に




これもまた何時もの如く


広場に武装した集団が現れた


アスタルテは広場の人々を結界で囲んだ


自身を守るためではない


刺客が無関係な人々を人質を取る事を防ぐ為だ


神の守護のお陰で、勇樹は心置きなく戦える


相手はごろつきからプロの刺客に変わった


もちろん戦闘の技能も雲泥の差


躊躇いもなく、彼の命を狙ってくる


死闘


それは鍛錬では身につかないものを勇樹に与えてくれる




星光教会は予想もしていなかっただろう


自分たちが放った刺客が、皮肉にも標的である勇樹の技を昇華させていく事に




一方、『白銀の魔狼』を手なずける?事に成功した愛


愛は、『白銀の魔狼』に請われ


元の世界で『月の女神』の名であったルナと名付た


街に入る際に、ひと悶着あった


魔法に心得を持つ犯罪者が手配を逃れて姿を変え街に入ろうとする


これを防ぐため検問所には『変化感知』の魔道具が設置されている


ルナにその魔道具が反応したのだ


愛は正直に番兵にルナの正体を明かた


「魔物を街に入れることは出来ん!」


「ましてや『白銀の魔狼』だと!? 尚更通す訳にはいかん!」


ルナの正体が魔物と知るや敵意を隠すことなく武器を構え威嚇する


自分が守ると誓った


誓いを守るためならば、強硬手段を使う事も厭わない


だが、そうなると同行している『漢たちの挽歌』に迷惑がかかるだろう


(この街にこだわる必要もないわね)


愛は一瞬の躊躇いもなくこの街を去る事に決めた


番兵に告げようとしたその時




「私はこの方の使い魔です」


誇り高き孤高の魔物が、愛の前で膝をつき首を垂れる


絶対の服従の証


「ルナ 立ちなさい」 


「あなたがそんな事をする必要ないのよ」


もう十分に苦しんできた


彼女にこれ以上苦痛を与えたくなかった


「いいえ 愛様」


「あなたは私の命を救ってくださいました」


「長い孤独な日々から解放してくださいました」


「私はあなたに忠誠を誓います」




愛は剣を構えた番兵を睨みつける


「この子にここまでさせてもまだ不服なら」


「私が相手になるわ」


「でも、ここにいる数では全然足りないわね」


「この街の兵を全員呼んでいらっしゃい!」


愛は怒りの波動を番兵に向けて放つ




「こ、この首飾りをつけて頂ければ」


「入っていただいて結構です」


恐怖の余り


尻もちをついて動けなくなった番兵は


ようやくそのセリフを吐いた後


気絶した


仲間の番兵も震えながら彼を運んでいった




「こんなみっともないモノをこの子に着けろですって!?」


愛の怒りは再び爆発寸前になる


だがルナはなんの躊躇いもなく


『使い魔』と文字の刻まれた


不格好な首飾りを身に着けた


「この程度で街に入れてもらえるなら喜んで」


彼女は嬉しそうに、愛に微笑みかけた


「あなたがそう言うのならいいわ」


ルナの笑顔は愛の怒りを笑顔に変えた




無粋な首飾りも彼女の美しさを損なわせることは出来なかった



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