第30話 AI(愛)の使い魔 (前編)
『白銀の魔狼』は死に場所を探していたのかもしれない
かつては、村の守り神として人々に崇められたことさえあった
村人の手に負えぬ、魔物を屠りや盗賊どもを退け
その見返りとして供え物と称する
食い扶持を得ていた
村人はみな善良な者たちだった
毎日笑顔が絶えない
そんな日が長く続いた
その安息を自分が守っているのだと誇らしく思ったものだった
しかし、ある時、戦が起こり他国の軍勢が攻め込んできた
大地を埋め尽くすような軍勢に村はあっけなく飲み込まれた
『白銀の魔狼』は自らの強さを自負していた
しかし、圧倒的な数の暴力に為す術もなかった
自分も村と運命を共にする覚悟は出来ていた
だが、村人たちが無力な魔物に望んだ事
それは、自分たちを救うことではなかった
「銀狼さま お逃げ下さい」
村の長老に案内され秘密の抜け穴を抜けた
「長年、村はあなた様のお陰で、平穏な時を過ごさせて頂きました」
「短命な私どもは、あなた様と過ごせた日々を良き思い出として、この世を去ります」
「どうか、悠久の時を生きるあなた様は、末永く幸せにお過ごしくださいませ」
長老は深々と頭を下げ村へと戻って行った
生まれ育った村と運命を共にするために
その時ようやく理解した
自分が村を守っていたのではない
自分が守られていたのだと
それから数百年、あてどなくさまよったが安住の地は無かった
人との接触を試みたこともあった
しかし、自分の姿を見た者たちは一応に同じ顔をした
恐怖歪んだその顔
かつて自分を守ってくれた村人たちの笑顔とはかけ離れていた
そして彼らは一応に叫び声をあげた
「恐ろしい魔物が現れた!」
「被害に遭う前に殺してしまえ!」
そのことごとくを今まで退けてきたが
中には魔物との戦いに長けた者たちも現れだした
遅れは取ることはなかったが
なかには手ひどい傷を負わされる事もあった
ただ、静かに暮らしたかった
それだけなのに
それは魔物である自分には許されない
気が弱くなったのか
いつしか疑問を抱くようになっていく
「自分は何のために生き延びているのだろう?」
もう逃げる事に疲れた
そしてとうとう、自分の力を遥かに凌駕する相手と戦うことになった
相手は女だった
正直負けるなどとは思ってもみなかった
彼女は自分に逃げるように警告してくれた
だがもう逃げる気にはなれなかった
だから戦った
圧倒的だった、手も足も出なかった
この者になら殺されてもいい
そう思えた
だから懇願した
「私を殺してくれ」と
彼女の返事はこうだ
「嫌よ! どうして私があなたを殺さないといけないの?」
以外だった
今まで戦ってきた者たちなら嬉々として自分を始末しただろう
「もう私は疲れたのだ」
「逃げる事にも戦う事にも」
そうして、話した
これまでのいきさつを
そうすると彼女は優しくこう言った
「今まで大変だったわね」
「でももう大丈夫」
「私といらっしゃい あなた一人守るくらいなんて事ないわ!」
彼女はさも簡単な事の様に言ってのけた
その言葉は力強かった
そして温かかった
だから彼女の言葉を信じることにした
「ああ また面倒な事言い出しやがって 仕方ねぇなぁ」
「まぁ あいつが居たら同じこと言ったろうなぁ」
もう一人の女が面倒そうに言ったが
なぜだろうその顔は笑っていた
「今は、あいつの事なんて関係ないでしょう!」
突然、女は怒り出した
(あいつってだれだろう?)
こうして『白銀の魔狼』は彼女の庇護を受けることになった
数百年の孤独が
差し伸べられた優しさが
彼女の中で激しく弾けた
「おねぇ様ぁ!」
愛への態度が急変した『白銀の魔狼』であった
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