第29話 AI(愛)の憂鬱(後編)

「『白銀の魔狼』の目撃情報があったのはこの辺りです姉御」


『漢たちの挽歌』の構成員の中でも精鋭と呼ばれる男が報告してくる


愛達一行は、彼女の希望とは裏腹に大所帯となっていた


当初愛はナノと二人で出かけるつもりだったのだが


「大事な姉御たちをお二人で行かせるなんて俺達『漢たちの挽歌』の面目が立ちやせん」




共同戦線を組むクラン


挨拶に出向くと盛大に持て成さた


そして、構成員たちからは我先にと握手を求められた


中には感極まって泣き出す構成員も居たほどだ


困っている者がいれば、損得の関係なく手を差し伸べる


力ある者にしか出来る事ではない


それを断った二人で成し遂げる者達


『氷の女神』愛と『炎の戦乙女』ナノ


彼らは、愛とナノを尊敬していた


気が付けば姉御と呼ばれ慕われていた




(姉御か・・・)


自分の方が随分と年上にもかかわらず自分をそう呼んだ


元居た世界でビジネスパートナーだった男の事を思い出す


彼は元気だろうか?


何せ彼には世界最高のAIがついている


心配はないだろう


「愛 考え事かい また勇樹の事かよ?」


「ち、違うわよ! 放したことがあるでしょ?」


「私の事を姉御って呼んでたって言う元の世界でビジネスパートナー」


「彼の事を思い出してたのよ」


「セルゲイだっけ? 元気にしてるのかね?」


ナノは直接の接触した事は無かったが愛から話は聞いている


愛が信頼した人物だ、出来れば一度会ってみたかった


「彼ならきっと大丈夫」


自分に言い聞かせるよに彼女は答えた


「そうだな」


「それより気付いてるか?」


「ええ 様子をうかがってるみたいね」




「隠れてないで出てきたら? それとも私たちが怖い?」


相手は魔物だ


言葉が分かるとは思えない


だが、愛の放つ挑発の思念は別だ


「我が脆弱な人族を恐れるだと!? 笑わせるな!」


「へぇ あなた喋れるんだ」


「我を侮るなよ子娘」


「あなたこそ 侮ってるみたいね」


「私を小娘呼ばわりするなんて」


「勇樹以外許さないんだから」


ん?


勇樹の事は、もう許しているのだろうか?




目の前に姿を現したのは巨大な狼だった


しかし、その姿は美しかった


その二つ名通りの光沢を放つ白銀の毛並み


そして超常的な力を発揮するであろう筋肉のうねり


並の魔物には発し得ない力の波動


「貴方の討伐依頼がでているんだけど」


「大人しく姿を消してくれれば見逃すわ」


「戯言を抜かすな! 貴様らこそ尻尾を巻いて逃げ出すがいいわ」


どちらも引かぬ一人と一匹


ならばやる事は一つ


一対一の決闘タイマンだ!




街に帰還した愛


往路よりも一名増えている


「愛お姉様ぁん!」


「ちょっと 歩きづらいからもう少し離れてくれる?」


愛に抱き着いて離れない美女が一人


その流れるような白銀の髪


煽情的な衣を身に纏ったその姿に通り過ぎる男たちが顔を赤らめた


「えらく懐かれたもんだな えぇ? 愛よぉ」


「あの『白銀の魔狼』を手懐けちまうんたぁ 流石愛の姉御!」


そうその美女は『白銀の魔狼』が人化した姿だった



愛する者には見放され(たと勘違いしている)


何故か、厳つい漢たちと魔物には懐かれているこの状況


愛は憂鬱だった




一方、勇樹たちの居る街ではひと騒動起こっていた


星光教会が襲撃にあったのだ


礼拝堂が跡形もなく吹き飛んだらしい


(コズミック・キャノンがあんなに強力だとは思わなかった)


(使うのはこれきりにしよう)


超生命体の力を封印するその誓いを破った


目的の為に人の命をモノのように弄ぶ


そんなことは絶対に許せないし


二度と起こってはいけない


今日の出来事は、固い誓いを破らせる程、勇樹の心を揺さぶったのだ


だが、その威力は彼の予想をはるかに上回っていた


昨日の、警告として少し壊すつもりだったがこの有様だった




「おのれ! 奴らは、神に仇成す悪魔の手先に違いない!」


「星光教会の全力を挙げてこの報いを受けさせるのです!」




勇気とアスタルテは星光教会を完全に敵に回してしまった



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