第28話 AI(愛)の憂鬱(中編)

今日は稽古を休みを取った勇樹


旅路での消耗品の買い出しをしたい


アスタルテの申し出に、荷物持ちとして動員されたのだ


(消耗品の中に彼女の洋服や装飾品まで入っているのは何故なんだろう?)


ワタルは疑問に思った


だが真実を知るには、命を懸ける覚悟がいる


彼は考えないことにした


彼女が通り過ぎるたびに


「おはようございます聖女様 いつもありがとうございます」


住人たちが笑顔で挨拶をしてくる




「随分人気者になったね アスタルテ」


「何言ってるのよ?」 


「この超絶美形女神アスタルテは、無意識にその魅力が溢れちゃってるわけよ」


「鈍感な勇樹には全く分かってないみたいだけど」


「はいはい」


「何よ、その失礼な態度は?」 


「それが偉大なる神に対する態度なの!?」 


彼女を女神様と呼んでいた勇樹だったが


そうすると彼女の機嫌が悪くなるので、名前で呼ぶようになった


ちなみに名前に様やさんとつけても怒られる


相変わらず口調は悪い


だが、彼女の雰囲気が随分と優しくなってきたと彼は感じていた




「たすけて!」


路地裏から助けを求める女性の叫びが聞こえた


躊躇なく駆けだす勇気とアスタルテ


人気のない路地裏


助けを求めた声の主が横たわっている


全身から流している血が多すぎる


辛うじて息ををしているが


このままでは長くはもつまい




「流石は女神様 助けを呼ぶ声に必ず反応すると思っておりましたよ」


6人の人影が待ち構えていた


全員覆面をしている


会話の内容からアスタルテを狙っての狼藉


関係のない者を瀕死の状態にしておきながら平然としている


「なんてひどい事すんのよ あんた達!」


怒りの声を上げるアスタルテ


「これをやったのはお前たちか!?」


勇樹が問いかける


さして大きくはない


だが、その声には怒りの感情がこもっている


いつも浮かべている笑顔は、そこにはなかった




「だったら何だと言うのです?」


「汚らわしい畜生が一匹死んだと、神はお喜びになる事でしょう!」


「心配しなくても、お前たちもすぐに地獄に送ってあげますから」


聞くに堪えがたい台詞を聞きとして吐き出す


どうやらこの男が首謀者らしい


残りの5人が一斉に飛び掛かってきた


勇樹は激しく怒っていた


だがその動きに微塵の乱れもない


彼らの狙いはアスタルテ


だが、その凶刃が彼女に届くことはない


決して!




勇樹の身体能力は、未だ封印されたままだ


だが彼には、手にした剣以上の武器があった


それは


身体が記憶程に繰り返された基本の型


その型を状況に合わせて


淀みなく流れるように


極限まで合理化された組み合わせ


何度も何度も繰り返し、試行錯誤を重ねた


日々努力を惜しまず積み上げて来たもの


彼の大切な宝




負けるはずがなかった


このような理不尽な者たちに


力なき者を傷つける


欲望しか求めない邪な刃に


彼の剣は淀みなく流れ


彼らの剣を持つ手を切り裂いた


次々に手に持つ武器を取り落とす曲者たち




無手となった者たちにそれ以上為す術はなかった


勇樹は彼らに告げる


「一度目は見逃す」


「顔を隠しいても無駄だ」


「僕には君たちがどんな姿形をしているかはっきりと分かる」


覆面をしようが、超生命体である勇樹の認識力を欺くことは出来ない


「そして例えどこに行こうとその居場所が分かる」


斬り合いとなった刹那


愛が開発した超小型ビーコンが曲者たちの体内埋め込まれた


もちろん首謀者の体にも


勇樹がひとたび追跡の意思を持てば


どこに隠れようが逃れることは出来ない


「もしもう一度同じことを繰り返すなら」


「次は絶対に許さない」


勇樹の気迫に押され逃げていく曲者たち




アスタルテは重傷を負った女性に駆け寄る


その姿を見て絶望する


余りにも傷が深すぎ血が流れすぎている


とても彼女の回復魔法では助けられないと


それでも彼女は諦めなかった


諦めたくなかった


自分の為に犠牲になってしまった


彼女を助けたい思いを込めて


ありったけの魔力を込めて


全力を込めた回復魔法を発動させる


彼女の祈りは届いた


彼女自身に


封印されていた『女神の力』に


失われつつあった命は


神々しい光に包まれ、この世につなぎとめられる




初めて人と触れ合い


彼らをその営みをようやく理解できた


短い人生を懸命に生きる


その命の大切さを知った




その尊い命を救いたい


その思いが『女神の力』を呼び覚ました



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