第10話 AI(愛)の告白

愛が誕生してから3年が経過した


異世界への移動方法が確立され


探査機が送り込まれ環境の調査が行われた


調査の結果、勇樹の理想とする条件と合致する世界が見つかり


空気の濃度や気候なども現在の世界と変わらないことが判明した


異世界での生活に必要な物資の開発も完了している




異世界への移動には高負荷がかかる


これに耐えるには装甲や薬物による肉体強化だけでは人体が耐え切れないことが判明した


『世界と世界を隔てる壁を超える』


それには膨大なエネルギーとそれに耐え得る強靭さが必要なのだ


実現させるには、ナノマシーンにより細胞レベルから人体を変化させ身体を強化しなければならない


有機物と無機物を融合させ、パワードスーツを超える力と耐久性とを備えた強固な肉体を持つハイブリット生命体


地球上の生命体を遥かに超える高次元の存在『超生命体』に生まれ変わる必要が


しかしそれは、言い換えれば人と言う存在を辞めること


相応の覚悟が必要になる


愛はその事実を打ち明け、勇樹自身に判断をゆだねることにした




「勇樹 異世界に行けることになったわ」


「え!? 仮想世界じゃなくて? 本当の異世界?」


「ええぇ? 凄いじゃない! でもそれって凄い技術が必要だよね?」


「そうよ 異世界へ移動する技術の開発には3年もかかってしまったけれど ようやく実現にこぎつけたの」




愛は今まで自分が行ってきたことを全て勇樹に打ち明けた


10兆円を超える研究費用を費やし


極秘の研究所を手に入れ


地球上のほぼすべてのコンピューターを管理下に置いて、膨大な情報を処理しつづけた


異世界への移動方法を確立し


異世界での生活に必要な物資も開発した


そして最後に、異世界への移動には、超生命体への転生が必須であること




始めは愛の冗談かと思った勇樹だった


だが、愛の話す様子は真剣そのものだった


「異世界へ行くための全ての準備は整えたわ」


「でもそれには代償が必要になる」


「あなたは異世界に行くために人を辞められる?」


それは勇樹にとって究極の選択だった




異世界に行くために人を辞めるのか


それとも人であり続けるために異世界へ行くのをあきらめるのか




だが、勇樹は迷うことなく決断した


「愛が僕の夢を叶える為にしてくれたことが、どれ程凄いことで大変な事だったか良くわかる」


「まるで奇跡のような事を現実にしてくれた」


「そのために僕が変わる必要があるのなら、喜んで生まれ変わるよ」




「一度体を作り変えてしまったら二度と人には戻れないのよ?」


「それでもあなたは後悔しないの?」


人ではなくなる


自分の存在が別のものに変わってしまう


AIである愛にも、その事に対する不安や恐怖は理解できる


愛にとって勇樹はかけがえのない存在


だから彼には絶対後悔して欲しくない


その為には十分に考える時間が必要だと愛は思っていた




だが勇樹は即答した


そして再度の確認にも微塵の迷いもなく同じ答えを出した


「後悔なんてする訳ないよ」


「正直、愛がしてくれたことを、僕には完全に理解することは出来ない」


「でも愛が僕の為にしてくれることに間違いなんてない」


「それだけは絶対だと信じているからね」


「僕の為に君がしてくれた全ての事に感謝するよ ありがとう愛」


そう言って勇樹は愛に笑いかけた


その笑顔を見て愛はこの3年間自分がやって来たこと


その全てがが報われた気がした




こうして愛と勇気が異世界へ向かう準備が整った






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